海外でのワーケーションも満喫!アラフォーで手に入れた〝複業〟フリーランスという働き方
京都を拠点に日本語教師とツアーガイド、民泊運営をし、観光のオフシーズンにはワーケーションで海外へ飛び立つという阪口裕子さんにインタビュー。現在の〝複業〟フリーランサーとしての働き方にいたったライフシフトのストーリーをお届けする。 【もっと写真を見る】
オンラインによる日本語教師、京都でのツアーガイド、民泊運営という3つの仕事をかけ持ちながら充実した日々を送る阪口裕子さん。さらに年に数回は国内外でのワーケーションを取り入れるなど、フリーランスとしての働き方を謳歌している。そんな彼女が日本語学校やホテル勤務、ワーキングホリデーといった仕事を経て、独立を決意したのは35歳の時。なぜ、フリーランスという道を選んだのか、そのためにどんな準備をしたのか、そして現在の仕事ぶりなど、じっくり話を聞いてみた。 さまざまな仕事で得た経験をもとに、フリーランスという働き方にライフシフト 大学の国際文化学科で日本語教員養成課程(副専攻)を修了した阪口裕子さん。その後、独学で日本語教育能力試験に合格し、中国・天津の日本語学校で日本語教師デビューを果たす。 「たまたま通っていた大学に日本語教員養成課程があることに気づき、2年生から本格的に勉強するようになりました。もともと語学に興味があったので、日本語を〝外国語〟として理解を深めるのはおもしろかったですね」 1年後、出身地である大阪に帰ってきて日本語学校で常勤講師として約4年勤務し、ホテルのフロント業務に転職。それと同時に日本語のプライベートレッスンの講師を始め、その後、ワーキングホリデーで台湾へと渡る。 「台湾での1年間はホステルで住み込みバイトをしながら、プライベートレッスンも行っていました。中国語は天津で1年働いた時にゼロから日常会話ができるくらいのレベルになっていたのを、さらに独学で勉強。さらにワーホリ体験を通して、仕事で使いながらブラッシュアップさせることができました。帰国後はベンチャー企業で、民泊代行をはじめとするインバウンド事業に携わることに。そこでは与えられた仕事をするのではなく、自分で仕事を作り出す楽しさを学びましたが、それと同時に自分には企業の一員として働くよりも、独立して一人で仕事をするほうが向いているという気持ちが日に日に大きくなって」 独立を決意した阪口さんは退職する1年ぐらい前から、フリーランスという働き方をネットで調べ始め、いろいろと準備を始めた。 「フリーランスの日本語教師など、自分のキャリアモデルになりそうな方を中心にXやインスタグラムでフォローして情報を収集。特に確定申告や年金のことなど、お金関係のことも事前にリサーチしました。また、自分のソーシャルメディアを仕事仕様に変えて、フリーランスになるためのプロセスや日本語学習者向けのコンテンツを作って投稿するなど、積極的に発信。言語交換ミートアップなどのイベントに参加したり、自ら主催したりして、知り合いを増やしていきました」 こうした準備を経て、フリーランスとして日本語教師を始めた阪口さん。最初は友人の紹介で数名生徒を獲得して、その生徒がまた生徒を紹介してくれるなど、幸先のいいスタートを切った。 「ソーシャルメディア経由で連絡をもらうこともありますが、大半は知り合いや既存の生徒さんの紹介ですね。語学プラットフォームにもいくつか登録していましたが、ほかの仕事との兼ね合いでレッスンカレンダーの調整が難しくなってきたので徐々に使わないように。現在はすべてオンラインレッスンで、日本在住の外国人が4割ほど、海外在住の方が6割ほど。国はアメリカ、ヨーロッパがメインで中国、台湾、香港の方もいらっしゃいます。また、ツアーガイドに参加してくれたゲストさんから日本語レッスンの連絡をもらうことも」 もともと海外旅行者との交流が好きで、ミートアップなどで知り合った旅行者の案内をしていた阪口さんはAirbnb(エアビーアンドビー)体験に着目。Airbnb体験とは、Airbnb社がホストとゲスト(旅行者)を仲介し、さまざまなローカル体験を提供できるサービスのこと。日本語教師として独立したと同時にAirbnb体験ホストとなり、大阪のローカルガイドとしてデビューした。 「大阪のツアーは食べ歩きか居酒屋巡りをメインにしていました。旅行者とたこ焼きや豚まんといったストリートフードを食べ歩きながら、サバイバル日本語(旅行中に使える日本語)も練習。現在、行っている京都のガイドはプライベートでゲストさんが行きたい場所に連れて行くカスタマイズツアーと、ローカルなエリアを回るグループツアーの2種類。いずれもサバイバル日本語の練習もしています」 順調にスタートしたかのように見えたフリーランス生活だが、全世界を襲った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で一変。旅行者がいなくなったことで、ツアーガイドの仕事はすべてキャンセルとなった。 「日本語のレッスンはすべてオンラインに切り替わったので、大阪にいる必要がなくなり。2020年の夏、京都のゲストハウスに長期滞在という形で、初めてワーケーションを体験したんです。そこから京都にドハマりしまして、移住することしました(笑)」 コロナ禍でのワーケーションをきっかけに京都に移住、そして民泊運営をスタート 2021年に京都に拠点を移した阪口さんは、京都ツアーガイドとしてAirbnb体験ホストを再開。さらにはかねてから興味があったAirbnbでの民泊運営の準備もスタートさせた。 「大阪に住んでいたころは、ワンルームマンションだったので民泊はできなかったんですが、たまたま京都で借りている家のオーナーさんが民泊OKという方で。初期費用を少し貯めてから、自分が住んでいる家の一部をゲストさんに貸すというホスト同居型の民泊を始めることにしました。これでがっつり稼ぐというよりは、複業の1つとして家賃と光熱費がカバーできるぐらいの収入になればいいなぐらいの気持ちです」 旅館業のライセンスは複雑だったため、年間で最大180日までという民泊サービス提供の制限がある簡易宿泊所のライセンスを取得。それでも必要な資料作成などを自分自身で行うのは負担が大きかったので、申請代行サービスを利用することにしたそう。 「部屋の面積などを細かく計って図面と一緒に資料作成、一酸化炭素検知器、非常口案内の設置などの工事、消防署の立会検査をクリアしたうえで役所に申請をし、問題がなければ登録完了となります。その後、Airbnbのウェブサイトでの物件紹介のページを整えて、同時に部屋の備品などをそろえて準備完了です。初期費用は申請代行費用、消防設備、マットレスといった備品などすべて含めて約50万円ほどで、準備期間は半年くらい。もともと自分が住んでいる家なので、備品購入費は最低限に抑えられましたね」 こうして2023年からは民泊運営も開始し、日本語教師、京都でのツアーガイドと複業フリーランスとして働いている阪口さんだが、それぞれの仕事が軌道にのるまでどのくらいの期間を要したのだろうか。 「もともと本業としてやっていた日本語レッスンは、先ほどお話ししたとおりで、そこまで集客に苦労することはなく。ツアーガイドの仕事もAirbnb体験プラットフォームに登録してしばらくすると予約が入り出し、いいレビューを書いてもらって次の予約につなげるというサイクルができたので、始めてすぐ軌道に乗ったといえば乗ったかなと。プラットフォームを使う場合はレビューが本当に重要なので、変なレビューを書かれないようにすべてのゲストさんに満足してもらえるよう努力が必要ですね。民泊も京都駅近くというロケーションと、始めは安い金額設定にしていたこともあり、予約カレンダーを開けてすぐ予約が埋まりました。いいスタートダッシュが切れたので、あとはいいレビューがたまれば何もしなくても予約は入るようになるかなと思います」 2018年にフリーランスとなった当初から、生活できる程度の収入はあった阪口さんだが、2年、3年と続けていく中で仕事のオファーも増加。現在では会社員時代を上回る収入をキープできているという。そんな3つの仕事をかけ持つ阪口さんの仕事ぶりはどのような感じなのだろうか。 「京都にいる間はツアー5割、日本語レッスン3割、民泊2割ぐらいの割合で、ツアーだけの日もあればレッスンだけの日もあります。忙しい場合ですと、午前中にレッスン2コマ、午後にツアー、夜にレッスン2コマなんてことも(笑)。でも、レッスンは5コマ(1時間×5)以上は入れないようにしているほか、基本的に日曜日はお休みに。さらに土曜日や月曜日の朝ゆっくりしたり、午後まるまる時間が空いている場合はカフェでゆっくりしたり、買い物したりすることもあります」 パソコンを携えてワーケーションへ。環境が変わると仕事のパフォーマンスも向上 現在、観光の繁忙期は京都で働き、それ以外はワーケーションを楽しむという阪口さん。旅先ではオンラインレッスンのほか、ブログの執筆や経理関係の仕事をするという。 「3月後半から7月前半が京都で仕事、夏はヨーロッパで過ごして9月末に帰国し、10月から12月前半まで京都に滞在、12月後半から3月前半を暖かいアジアの国かヨーロッパなどという感じです。基本的にオンラインでできることは一年中続けて、ツアーと民泊は私が京都にいる時だけ。さらにツアーと民泊の予約状況次第では、数日~1週間ぐらいで国内ワーケーションに出かけることもあります。もともとコロナ禍に京都でワーケーションをしたことがきっかけなのですが、その後もイギリス、スイス、イタリア、ドイツ、フランス、ルクセンブルク、タイ、インドネシアなどの海外のほか、日本各地も飛び回っています。今年の冬は屋久島で1か月ワーケーションしてから、ベルリンに行く予定です」 滞在先ではフリーの時間帯に観光をしたり、夜には地元のバーでビールを楽しんだりと充実した時間を過ごしているそう。 「同じ仕事をしていても場所と環境が変わるだけでいい気分転換になるんですよね。それが仕事にもいい影響を与えて、結果としてパフォーマンスが向上し、収入にも影響するという好循環が生まれると。毎日出かけるわけではなく、たまには1日中部屋にこもって仕事をする日もありますが、窓から眺める景色が違うだけでも気分がいいですし、合間の時間に近所を散歩したり、スーパーに行って地元の食材を使って料理したりするのも楽しいです」 近年、働き方の多様化により、阪口さんのように国内外でワーケーションをする人も増えてきているが、収支のバランスも気になるところだ。 「基本的にワーケーション中は、収支がプラスマイナス0になれば上出来ぐらいの感覚。むしろ旅行する時間が多かった月は支出のほうが多い時もあります。その分、京都にいる時にがっつり働いて貯めておくといった感じです。バリやベトナム、タイなどアジアでAirbnbに長期ステイする場合は、光熱費込みで1か月5~10万円で滞在でき、あとは食費を中心に日常品くらい。ロンドンなど物価が高い場所に滞在する場合は、Airbnbで長期割引があったとしても1か月20万ぐらいはかかります。それでもホテルよりはかなり安く、さらに誰かとシェアするともっと抑えることも可能ですし、外食をあまりせずに自炊するとかなり節約に。家を持たないノマドワーカーの場合は家賃がかかりませんが、私の場合は京都の自宅の家賃も発生します。ワーケーション中のオンラインでの仕事の収入が20万前後なので、飛行機代も合わせると支出のほうが多くなることも(笑)。だからこそ、やはり収入がある適度確保できていると、メンタル的に安定しますね」 時には「まあ、何となるか」というメンタルもフリーランスでは大切 複業フリーランスを始めたことで、自分らしい働き方を見つけた阪口さんにとって、現在の仕事をしていてよかったと思うはどんなことだろうか。 「日本語教師では生徒さんの上達や自己実現のお手伝いができていると感じられること。ツアーガイドでは日本と世界の橋渡しができ、自分が大好きな場所でローカルな体験を喜んでもらえること。民泊運営も同様で、ホテル滞在では感じられないリアルな日本の生活をゲストさんたちとシェアできることですね。そして、すべてに共通しているのは、生徒さんやゲストさんの国の文化や言語などを知ることができ、さらに自分自身の知識やマインドを豊かにすることができることです」 加えて、仕事をするうえで大変なことはないか聞いてみたところ、「文化や生活習慣が違う方々と接する時は話す内容など言動には、やはり気をつかう」という言葉が返ってきた。 「こちらの常識の押し付けになっていないか、失礼な質問をしていないかなど、自分では気付かないうちに相手を不快にしている場合もあるので、その点には常に注意しています。そういう意味でも海外を旅することによって、いろいろな価値観に触れることができるので、自身のアップデートのためにも海外ワーケーションをしているんです」 フリーランス生活7年目に突入した阪口さんは、今後も今のワークバランスをキープしつつ、もう少し自分の時間も増やしていきたいそう。 「仕事面でいうとオンラインでできることをもう少し増やして、ワーケーション中の収入をもう少し伸ばしたいですね。プライベートでは語学力をブラッシュアップしたいのと、まだまだ訪れてみたい場所がたくさんあるので、新しい場所でワーケーションする機会を増やしたいなと」 自身が思い描いていた理想の働き方とライフスタイルと実現できたという阪口さんにとって、フリーランスに向いている人の条件も聞いてみた。 「1つは結果にコミットできる人。自分自身で目標を定めて、それを達成するために計画的に努力できること。もう1つは収入や先行きが不安定でもあまり気にしない、むしろその状況を楽しめる人。フリーランスは自由な反面、不安定と孤独との戦いなのでどちらにしても逆境に強いメンタルは必要です。自分自身は後者で、もともと明確なキャリアパスがあったわけでもなく、収入にそこまでこだわりがありませんでした。『まあ、何とかなるか』と思えるメンタルはフリーランスとしてやっていくのに大切な要素だと思います」 最後に阪口さんのようにライフシフトをしたい、新しい働き方を見つけたいと考えている人にアドバイスをもらった。 「私も30代半ばに差し掛かった時に何かモヤモヤしたものというか、自分はこのままでいいんだろうか?というような焦燥感と毎日向き合っていました。結果としてこの〝モヤモヤ〟が背中を押してくれたので、今同じように感じられている方は自分自身と向き合う時間を意識して作ってみるといいと思います。ノートに感情ややりたいことを書き出す〝1人ブレスト〟は自分自身のマインドの整理になりますし、自分が描く理想の姿のために今何をすべきかがだんだん明確になってきます。ネットを活用してとにかく情報収集することで、既に活躍されている方のリアルな声を聞けることも。あと、何かに迷った時は、京都の静かなお寺で日本庭園を眺めながら思考を整理するのもおすすめです!京都は自然と歴史とアートが融合していて、まさにワーケーションにぴったりの街です。最後は宣伝になりましたが(笑)、皆さまがハッピーライフを送れることを願っています」 文● 杉山幸恵