称賛を集める「多様性の描き方」とは? 映画『モアナと伝説の海2』評価レビュー。今、続編が作られたことの意義を考察
人とのつながりを描く『モアナと伝説の海2』の挑戦
『モアナと伝説の海2』では、ポリコレと位置付けていいのかわからないものもあるが、前作とは違った仕方で多様性を反映している。まず挙げられるのは、監督がジェイソン・ハンドに加え、サモアにルーツを持つデイブ・デリック・ジュニアとデイナ・ルドゥー・ミラーに交代したことだ。 また、同じ船に乗り込むクルーもそうだ。どれもクセのある人物ばかりだが、その1人に年老いた農夫のケレ(デヴィット・フェイン)がいる。彼はいかにも気難しい人物で変化を好まない、頑固な老人として最初は描かれている。 しかし、物語が進むにつれ、そうしたステレオタイプな老人像から離れていく。ケレはいつの間にか学び、コミュニケーションの幅を広げていくのだ。 コミュニケーションという点では、ココナッツの鎧を身につける海賊カカモラにも注目したい。人間の言葉を話さないカカモラたちとは、前作では単に敵対していた。今回も似たような展開で登場するものの、共通の危機を前に、絵を使いながらなんとか意思疎通をしようとする。言葉の通じない種族との共存、共闘が映し出される。
現代社会から考える『モアナと伝説の海2』
こうした多様な人々との共存や、バラバラになった民が再び集うために島を見つけるという旅の目的を考えると、昨今の政治、社会状況をつい読み込んでしまう。 嵐の神ナロは、海の民たちのつながりを断つために、集いの場になっていた島に呪いをかけ、嵐を発生させている。パンフレットによれば、ナロのアイデアは、人々のつながりに嫉妬するサモアの物語の神々からきているそうだ。 ナロはルーツに基づいて考案されたキャラクターであり、バラバラになった海の民を探しにいく展開も前作からすれば自然ではある。しかし、こうした『モアナと伝説の海2』の設定には、トランプ政権以後の人種の分断を思い浮かべずにはいられない。 困難な状況に対してモアナたちはどのように悩み、立ち向かっていくのか。そこには、前作から8年の年月と状況の変化、続編が作られた意義を見出すことができるだろう。 【作品概要】 『モアナと伝説の海2』大ヒット公開中 監督:デイビット・ダーリック・ジュニア、ジェイソン・ハンド、ダナ・ルドゥ・ミラー 脚本:ジャレド・ブッシュ、ダナ・ルドゥ・ミラー 原案:ジャレド・ブッシュ、ダナ・ルドゥ・ミラー、ベック・スミス 出演者:アウリイ・クラヴァーリョ、ドウェイン・ジョンソン、フアラーライ・チョン、ローズ・マタフェオ、デヴィット・フェイン、アフィマイ・フレイザー、カリーシ・ランバート=ツダ、テムエラ・モリソン、ニコール・シャージンガー、レイチェル・ハウス、ジェラルド・ラムゼイ、アラン・テュディック 2024年製作/100分/G/アメリカ 原題:Moana 2 配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン ©2024 Disney. All Rights Reserved. 【著者プロフィール:島晃一】 映画・音楽ライター、DJ。福島県出身。『キネマ旬報』、『ミュージック・マガジン』、『NiEW』などに寄稿。『菊地成孔の映画関税撤廃』(blueprint)で映画『ムーンライト』のインタビューを担当。J-WAVE「SONAR MUSIC」の映画音楽特集、ラテン音楽特集に出演。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」や『散歩の達人』では、ペデストリアンデッキ特集といった街歩きの企画にも出演、協力。渋谷TheRoomでクラブイベント「Soul Matters」を主宰している。
島晃一