月ノ美兎のイズムを体現した“異形のMV” 「てんやわんや、夏。」監督・UBUNAが語る誕生秘話
ツッコミ待ちの演出と、引き算をする映像作り
――制作では3人が最初に歌詞やアイデアをどんどん出して、それをストーリーボードの形で整えていく、という形式をとったそうですね。最終的にはどのようにまとめられたのでしょう? UBUNA:基本的には、引き算をする作業でしたね。そもそもこの作品って、おじさんたちがコスプレをしている時点でかなり「画的な情報量」が多いんです。なので、そこにさらに要素を増やすのではなく、3人がパシャパシャと水遊びをしたり、サンオイルを塗り合うようなテンプレのお色気シーンなんかを入れて、ツッコミ待ちをする演出にしようと思っていました。 ――たしかに、椎名唯華役の方が喋っているだけでもインパクトがすごくて、実際そのシーンがXでバズっていましたね。 UBUNA:椎名唯華役は奥田隆一さんという役者さんにお願いしたんですが、彼は素でずっとぼーっとしているんです。というのも、結構ふくよかなので、夏の撮影だったこともあってかなり撮影中に息切れしていて、意識朦朧としながら撮影していたそうなんですよ。 ただ、この疲労困憊な様子をカメラ越しで見ると、椎名さんのけだる気な感じとか、ふてぶてしい態度を演じているように映っていて、ハマっていたんですよね。撮影の裏では、いっぱいいっぱいだったと思いますが……。 ――UBUNAさんは以前、JK組(月ノ美兎、静凛、樋口楓による3人組ユニット)のMV撮影も担当されていましたね。今回、UBUNAさんが監督として目指していたゴールはありましたか? UBUNA:美兎さんたちがやりたいことをどう映像に持っていくか、というのにくわえて、かなりこちらに任せてくれていたので、美兎さんに刺さりそうなポイントは結構意識して作っていましたね。 ――普段の制作と異なる部分はありましたか? UBUNA:今回、あれもこれもやっていいですと言ってもらえたのは、普段とまったく異なりますね。私はふだんアイドル系のMVをご依頼いただくことが多くて、そうなってくると、アーティストさんをよく見せるとか、この表現はNGとか、結構細かく打ち合わせをするので、かなり変わってきますね。 ――同じMVでも、全然手法も環境も違うものなんですね。実際に制作を終えた感想はいかがですか? UBUNA:純粋に楽しかったですね。自分はおじさんを撮るのが好きだし、日常アニメも好きだし、シュールギャグも大好きなので、ずっとやりたかったことを詰め込んだ作品を作れたと思います。 ――本作は楽しさの中にどこか切なさもあって、いわゆる“エモい”作品に仕上がっていると感じました。要素の部分以外でいうと、どのような狙いがありましたか? UBUNA:「誰かの思い出」っぽい感じにしたいなと考えながら作ったんです。この映像を、数年後に誰かが思い出してくれたらいいなと。なので、ストーリーよりも「断片的な記憶の映像」にしたかったんです。 それで、演者さんたちにはまず自由に遊んでもらって、それを私とカメラマンで切り抜いていくスタイルで撮影しました。信頼している役者さんを起用したので、きっと面白いことをしてくれるだろうと思い、30分ぐらいずっと海で遊ばせておいて、それをドローンで狙って撮っていました。真夏の海なので、しんどそうでしたけど……(笑)。