労基署が異例の逮捕で話題に ── 逮捕できる職業はほかにもあるの?
岐阜労働基準監督署は3月22日、中国人技能実習生に適切な賃金を払わず、労基署の調査も妨害したとして、最低賃金法違反と労働基準法違反の疑いで、縫製会社社長と技能実習生受け入れ事務コンサルタントの2名を逮捕しました。労基署が容疑者を逮捕するのは“異例”のケースです。
逮捕できる職業は警察以外にもある!?
今回の報道を受け、労基署が法律違反者を逮捕できることに驚いた人も少なくないのではないでしょうか。実は、警察以外にも逮捕できる権利をもつ職業があります。それが、検察官、検察事務官、司法警察職員です(刑事訴訟法第199条) 。 司法警察職員は、一般司法警察職員と特別警察職員とに分類されます。前者は、私たちが普段目にする警察庁や各都道府県の警察官のこと。後者は、特定の事項において、その職務をまっとうするために警察権限をもった一般司法警察職員以外の司法警察職員のことです。 特別司法警察職員は、個別の法律や司法警察職員等指定応急措置法 で定められます。 たとえば、司法警察職員には次の例があります。 ●陸・海・空自衛隊警務官(自衛隊法第96条 ) ●海上保安官(海上保安庁法第31条 ) ●皇居護衛官(警察法第69条第3項 ) ●刑事施設の長(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第290条 )
労基署が労働基準法違反者を逮捕できる理由
労働基準監督官の場合、「労働基準法第102条」において「労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察員の職務を行う 」と定められています。 この条文が根拠となり、労働基準監督官は司法警察員としての権限を持ち、労働基準法違反について逮捕や捜査ができるのです。ただし、それらは強力な権限ゆえ、労基署がそれを行使できるのは労働基準法や最低賃金法(第33条) などの法律上定められた所管事項に限られます。
警察以外が逮捕した事例は、2015年にも……
警察以外が容疑者を逮捕したケースといえば、タレントの小向美奈子さんもこれに該当します。関東信越厚生局麻薬取締部は2015年2月6日、覚せい剤取締法違反の容疑で小向さんを現行犯逮捕しました。 麻薬取締官および麻薬取締員は、「麻薬及び向精神薬取締法 の第54条第5項」で司法警察員としての職務が認められています。また、「麻薬取締法第58条」 や「あへん法第45条」によって、麻薬やアヘンに関する犯罪捜査時、厚生労働大臣の許可を受けた上でのおとり捜査は合法とされています。 特定の職業に逮捕権という強い権限が与えられているのは、第一線で業務にあたり、悪質な違反をいち早く発見・是正する役割を担っているからにほかなりません。 (南澤悠佳/ノオト)