スタンドを何度も沸かせた昌平の2年生MF長璃喜。決勝で2G1Aの活躍ぶり。“持っている男”の進化はまだまだこれからだ【総体】
「決勝はもうやり切りました」
[インハイ決勝]昌平 3-2 神村学園/8月3日/Jヴィレッジスタジアム 神村学園とのインターハイ決勝において、昌平の2年生MFの長璃喜は2ゴール1アシストと全得点に絡むプレーでチームを勝利に導いただけでなく、スタジアムに詰め掛けた2261人の観衆を何度もどよめかせ、視線を一身に集めていた。 【画像】ともに初優勝を賭けた決勝は、逆転で昌平が勝利!玉田圭司監督就任一年目で悲願の全国王者に|高校総体決勝 神村学園 2-3 昌平 プレーの詳細は後ほど触れるが、「やはり彼は持っているね」と試合後に長年チームを見てきた村松明人コーチが口にしたように、彼は「ここぞ」というところで“劇的”に決める。 思い起こせば昨年度の選手権で、1年生ながら切り札として途中投入され続けた長は、2回戦の米子北戦で0-1の後半アディショナルタイム4分に起死回生の同点弾を挙げてPK戦での勝利に貢献すると、3回戦の大津戦でも1-2で迎えた後半38分にゴールを決めて、2試合連続のPK戦勝利に導いた。結果はベスト8で終わったが、長はわずかなプレー時間で特大のインパクトを放った。 しかし、今年は主軸としての活躍を期待されていたが、度重なる怪我に苦しみ、プレミアリーグEASTでは11試合を消化した時点で、出場わずか6試合、203分のプレー時間に留まっている。それでもチーム最多の5ゴールを挙げており、出たら必ず結果を出す男としての存在感は保っていた。 迎えた今大会。初戦はベンチスタートだったが、2回戦と3回戦はスタメン出場を果たすもゴールが生まれず。準々決勝の桐光学園戦では再びベンチスタートとなった。それでも玉田圭司監督は長の力を信じて、準決勝からスタメンに復帰させると、今大会ノーゴールの状態で迎えた決勝でも彼をスタートからピッチに送り込んだ。 立ち上がりはそこまで躍動感があるプレーを見せたわけではなかった。この大会を通じて、長の思い切りの良さが影を潜めているように見えた。ドリブル開始時点ではキレは抜群だったが、距離が伸びたり、相手がドリブルを警戒して複数のカバーが来たりすると、徐々にトーンダウンしてしまうこともあった。 だが、「ここぞ」という場面で劇的に決める男は、最後の最後でその真骨頂を見せる。1点のリードを許して迎えた前半アディショナルタイム、MF山口豪太(2年)の右からのクロスに「豪太がクロスを上げてくれることが分かっていたので、前に突っ込んで相手より先に触ることを意識した」と、DFの死角からの鋭い飛び出しで合わせて今大会初ゴールをマークする。 そしてこの日、一番スタジアムをどよめかせたスーパープレーが、1-2で迎えた後半31分に飛び出した。その直前のクーリングブレイクで玉田監督から「どんどん仕掛けていけ。相手の14番(名和田我空)は素晴らしい選手だけど、同じような存在にならないといけないぞ」と発破をかけられたことで、長の目の色が変わった。 左サイドのハーフウェーライン付近でボールを持つと、そこからドリブルを開始。相手が寄せられないような間合いとコース取りで、スルスルとペナルティエリア外中央まで加速しながら運ぶと、迷わず右足を一閃。ボールは唸るような軌道でゴール左隅に突き刺さった。 まだまだ勢いが止まらない長は、その3分後にMF大谷湊斗(3年)のパスを左サイドで受けると、縦に仕掛けてから「ファーにチソッの姿が見えた」と、切り返しから柔らかいクロスを送り込む。それをFW鄭志鍚(3年)がヘッドで押し込み、チームはついに逆転に成功した。そのままタイムアップの時を迎え、昌平が悲願の全国大会初制覇を達成した。 「準決勝までは全然うまくいかなかった。ボールに関わる回数、ランニング、ドリブルの回数も少なかったのですが、決勝はもうやり切りました」 重要な場面で、強い相手になればなるほど、昌平のスーパードリブラーとしての真骨頂を見せつける。もちろん、長はこの活躍で満足していない。怪我をしない身体づくりをして、フルタイム通して安定したプレーを出せるように。『持っている男』の進化はまだまだこれからだ。 取材・文●安藤隆人(サッカージャーナリスト)