【W杯最終予選直前】日本に立ちはだかるインドネシア「東南アジア最強チーム」のヒミツ
厳格なルールは公平性のため
ワールドベースボール・クラシック(WBC)に出場したラーズ・ヌートバーはアメリカ生まれ、アメリカ育ちだが、母親が日本人なので日本代表でプレーできた。 世界的な普及度が低いベースボールでは、アメリカ生まれ、アメリカ育ちの選手が各国代表でプレーすることが多い。イタリア代表の多くは、イタリア系アメリカ人のメジャーリーガーだった。 だが、サッカーでは国籍取得が代表入りの条件となっている。また、どこか1つの国でフル代表として予選を含むW杯などの公式戦に出場すると、その後、他国の国籍を取得してもその国の代表にはなれない。 選手の国際移籍が盛んなサッカーでは、こうでもしないと財政力のある国が圧倒的有利に立ってしまうからだろう。 かつては規制は緩やかだった。1934年に第2回W杯を開催したイタリアでは、「優勝」が独裁者ベニト・ムッソリーニからの至上命令だった。そこで、イタリア代表は第1回大会でアルゼンチン代表として準優勝に貢献した選手3人を代表入りさせて、ムッソリーニの命令を実現した。
強豪チームの国際化
また、ペレ(ブラジル)やディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)と並んで「20世紀最高の選手」と称されるアルフレード・ディステファノはアルゼンチン生まれだが、アルゼンチン、コロンビア、スペインの3か国の代表としてプレーした。 海外生まれの選手を使って代表強化をした例もいくつもある。ポルトガルはエウゼビオをはじめ、アフリカにあった植民地(厳密に言えば「海外県」)モザンビークやアンゴラ出身の黒人選手多数を擁して1966年W杯で3位に入賞した。欧州ではアフリカ系の選手がまだ珍しかった時代だ。 フランス代表の半数以上は旧植民地国出身の黒人選手だ。だが、逆にセネガルやコートジボワールといった旧フランス領アフリカ諸国ではフランス生まれ、フランス育ちの選手が何人もプレーしている。 中国は、中国の金持ちクラブでプレーしていた外国出身選手に国籍を与えて代表の強化を図った。中国経済が失速するとその多くは帰国してしまったが、現在もブラジル出身のFWフェルナンジーニョ(中国名:費南多)やイングランド出身のDFティアス・ブラウニング(蒋光太)などがプレーしている(ブラウニングは祖父が中国人)。 日本も、かつては日系ブラジル人選手として初めて日本でプレーしたネルソン吉村(日本名:吉村大志郎)やラモス瑠偉、呂比須ワグナーといったブラジル育ちの選手が代表で活躍した。だが、最近は海外出身の選手が代表に招集されることはなくなった。 代表の現在のナンバーワンGKの鈴木彩艶やパリ五輪でキャプテンを務めた藤田譲瑠チマなどは、アフリカ人の父と日本人の母との間に日本で生まれ、日本のクラブ(鈴木は浦和レッズ、藤田は東京ヴェルディ)で育った。民族的ルーツはどうあれ、日本のクラブで育った選手なら間違いなく日本代表の資格はある。
強化されたインドネシア代表にどう出る?
いずれにしても、オランダ出身選手で固めてくるインドネシアは、従来の東南アジア勢に比べてフィジカル的な強さもあり、侮ることはできない。 だが、日本選手の多くはオランダ・リーグより格上のイングランドやドイツ、スペインなど、いわゆる「5大リーグ」でプレーしているのだから、オランダ出身選手を怖がる必要はまったくない。また、最近になって次々と新しい選手が加ったインドネシアに比べれば、チームとしての完成度もはるかに高い。 FIFAランキングでは日本の15位に対して、インドネシアは130位。日本が圧倒的に優位にあることは間違いない。日本代表は11月の2試合に連勝すれば、予選突破に王手がかかる。
後藤 健生(サッカージャーナリスト)