能登半島の子どもたちが“おらが街のスタジアム”で見せた笑顔。サッカーの絆がつないだバスツアー「30年後も記憶に残る試合に」
声をからした試合と、83食のカツカレー。「スタジアムでしか味わえないこと」
――抜かりない準備で迎えた当日。子どもたちの表情はどうでしたか? 角田:急遽参加のグループもいたので、最初は静かでよそよそしかったです。スタジアムに到着する前に、元日本代表の石川直宏さんとGK西川周作選手から提供していただいたサイン入りユニフォームやグローブなどの豪華賞品を巡ってじゃんけん大会をしたりして、試合前からかなり盛り上がっていました。当日は快晴で、試合が始まると、子どもたちはサポーターさんがプレゼントしてくれたTシャツやユニフォームを着て、応援グッズを持ち、スタンドを(チームカラーの色に)赤く染めて、タオルマフラーを振り回しながら、「頑張れー!」って一生懸命応援していました。本当に楽しそうでしたね。 ――試合は14時キックオフでしたが、試合前にはスタジアムグルメなども楽しんだのですか? 角田:当日はスタジアムが満員になって大混雑になると言われていたので、早めに行きたかったんですが、珠洲市からの距離を考えると、どうしてもお昼前になってしまう。スタジアムグルメも大行列で食べられない可能性があったので、どうしようと思っていたら、また奇跡が起きたんですよ。 ダメ元で、スタジアムのネーミングライツを持つゴーゴーカレーさんに、試合の1週間前に企画書を送って、83人分の食事をどうにか準備したい旨を伝えたらすぐに連絡がきて、「カレーを提供しますよ」と言ってくださって。83名分のカツカレーを無償提供していただいた上に、ハーフタイムにはわざわざ社長さんが会いに来てくれて。本当に感動しました。
――それも素敵なエピソードですね。メインイベントの試合観戦はどうでした? 角田:サポーターの皆さんが、一緒に応援できるようにゴール裏のど真ん中の最上段を譲ってくれたんです。初めて試合を見る子どもたちは、目の前にコアなサポーターがいるので真似して応援できるし、座って見る指定席ではなく、声を出して飛び跳ねてもいい場所でした。避難所では、大きな声で騒ぐことは難しいです。子どもたちを水族館とか美術館じゃなくて、スタジアムに連れていく一番の要素はそこなんです。サッカーには「飛び跳ねて良し、歌って良し、騒いで良し」がありますから、手拍子や歌などで生まれる一体感は他の場所ではなかなか味わえないですよね。 黙祷では泣いているお母さん方がいました。子どもたちはそういうのも、ちゃんと見てくれていると思います。 ――ただ、試合はカターレ富山に1-4で負けてしまいましたね。 角田:そうなんですよ(苦笑)。でも、PKで1点入れた時はすごく盛り上がりましたし、喜びが爆発した瞬間に立ち会えました。1-4で負けていて、僕はあきらめモードなのに、ずっと子どもたちは立って声出して応援しているんですよ。涙が出ました。試合には負けても、10年後、20年後、30年後も、こけら落としの試合に行ったっていうのはこどもたちの記憶の片隅に残ると思うんです。ワールドカップもそうですけど、そういう一生の思い出に残る試合に招待できたことは良かったなと思います。サッカーファミリーの皆さんのおかげです。