「ヤバすぎるほど複雑なことをやっていた...」“元中日・走塁のスペシャリスト”が解説、プロ野球のベースコーチがコーチャーズボックスの外に出る「深すぎる理由」
なぜ、ベースコーチはコーチャーズボックスの外に出るのか?
「1塁・3塁のベースコーチの立ち位置がどうしても気になってしまうんです。コーチャーズボックスってあるじゃないですか。私が観る限り、ほとんどのコーチがボックスの外に出ていますが、ルール的に問題ないのでしょうか?」(巨人ファンの男性) 【一覧】プロ野球「最も愛された監督ランキング30」最下位は、まさかの… 四球でランナーが出た際の一塁ベースコーチによる耳打ち、ランナー2塁でシングルヒットが出た際の三塁コーチの大げさに手をぐるぐる回す様子。日常的にプロ野球を観戦しているファンにとって、一塁側、三塁側ともに枠が記されているにもかかわらず、ベースコーチがその外にいるのは当たり前の光景だろう。素朴な疑問だが、枠外に出ることでの罰則規定などはないのだろうか。 公認野球規則によれば、「(a)攻撃側チームは攻撃期間中、2人のベースコーチを1人は1塁近く、1人は3塁近くを所定の位置につかせなければならない。(b)ベースコーチは各チーム特に指定された2人に限られ、次のことを守らなければならない」とあり、「(1)そのチームのユニフォームを着ること。(2)常にコーチスボックス内に留まること」と明記されている。また、ペナルティとして「審判員は本項に違反したものを試合から除き、競技場から退かせる」とある。 「規則には続きがあり、『ほとんどのコーチが片足をコーチスボックスの外に出したり、ラインをまたいで立ったり、ボックスのラインの外側に僅かに出ていることは、ありふれたことになっているが、相手チームの監督が異議を申し出ない限り、コーチャーズボックスの外に出ているものとはみなされない』などとあります。相手チームからクレームがあればルールは適用されますが、そうじゃない限りは特にお咎めなしですね」(在京球団担当記者) では、実際にベースコーチの経験を持つプロは、コーチャーズボックスの存在をどのように捉えているのか。
コーチャーズボックスは『絶対に留まらなくてはいけない場所』だという認識はなかった
「コーチャーズボックスは『絶対に留まらなくてはいけない場所』だという認識はありませんでした」 そう語るのは、中日ドラゴンズで守備・走塁のスペシャリストとして長年活躍した英智氏だ。 「もちろん、コーチャーズボックスからすごく離れた場合は審判から注意を受けますし、キャッチャーのサインを盗むような動きやインプレー中に選手と接触するのもNGです。選手時代も、走塁にコーチと接触しないよう、注意を払っていました。 しかし、コーチャーの仕事面から考えると、コーチャーズボックス内から完全に出ないということは難しい話なのです」 現役引退後、中日で1塁・3塁コーチを務めた経験を持つ英智氏に、ベースコーチの試合中の動きを詳しく解説してもらおう。 「まず、よく見る光景として1塁コーチャーがランナーとして出た選手とグータッチをして革手や肘あてを受け取る場面があると思いますが、この時に次のプレーについてのコミュニケーションを取っています。 例えば、『ライトにボールが飛んだ時は深さを考えると三塁まで行けるよ』とか、『このポジションがこっちに寄っているよ』、また『こういうサインが出るよ』『ライナーは気を付けてね』などと素早く耳打ちをしなくてはなりません。伝達相手が日本人選手の場合は相手に情報を盗まれる危険があるため、ボックスを離れて伝えます。 1塁ランナーがドミニカ人やキューバ人の場合、『走れ』のサインは『GO』ではなく『ベテ』。スチールやエンドランのサインが出たら、耳元で『ベテ』と囁き、お尻をポンと触りながらサインを伝達しますので、この場合もやはりコーチャーズボックスからは離れます」 もちろん、コーチャーズボックスから離れるのはプレーが止まっている時だけではない。プレー中はさらに複雑な動きが繰り広げられているという。 「1塁コーチャー時の例では、ファーストを守る現・中日の中島宏之選手やヤクルトのオスナ選手の動きは特に注意する必要がありました。 例えばランナー1・2塁の場面、一塁手はベースから離れて守備に専念するため、野手はリードを大きく取ることができますが、彼らはそれを逆手にとってブロックサインで牽制アウトを狙ってきます。 彼らのその一瞬の動きは、実はコーチャーズボックスの中でバッターを意識しているだけでは見落としてしまいます。このケースでは、コーチャーズボックスから出てライト方向に2メートルほど下がり、ピッチャーとキャッチャーを見る視野の中に一塁手の守備位置とベースも入れておくんです。こうすることにより、一塁手のちょっとした動きを察知し、ランナーに『バック』と指示を出すことが可能になります」