「アブラカダブラ」は誰が唱え始めて、どのように使われていたのか、正しい詠唱法は?
魔法の言葉がもたらす力
しかし、アブラカダブラは治療としての有効性を失ったようで、1800年代初頭、ウィリアム・トマス・モンクリーフ作の舞台演劇に、マジシャンが発する言葉として登場している。 20世紀に入ると、アレイスター・クロウリーが1900年代初頭に創設した宗教セレマで言及されるのみとなった。クロウリーは1904年の著書『Liber Al Vel Legis(法の書)』で「アブラハダブラ」という言葉を多用し、人類の新時代の名前だと説明している。クロウリーはまた、「ハーメティックカバラ」という数秘術に由来すると主張し、アブラカダブラのCをHに置き換えている。 グレアム氏は、魔法が治療として有効だと考えられていたのは、近代医学が発展する前のことだと指摘する。「昔はいろいろなことをするのに魔法が必要でしたが、今は良い薬があります」。そして、アブラカダブラはマジックショーや手品の世界に追いやられてしまった。「魔法は今や、スペクタクルと気晴らしのための存在です」 アブラカダブラがまだ力を保っているとしたら、それは誰もその意味を理解していないためかもしれない。「魔法の言葉はマジシャンに力を与えますが、見ている人にはそれが何なのかわかりません」とグレアム氏は話し、「他者の目には、言葉がマジシャンに力を与えているように映ります」と続ける。 アブラカダブラが無意味に聞こえる、そのことこそが重要なのかもしれない。グレアム氏は言う。「もしその言葉が謎めいていなければ、これほど魅了されることはないでしょう」
文=Tom Metcalfe/訳=米井香織