フランスで、反動保守の資産家がメディアを相次いで買収!? 問われる報道の独立性。
無料の地上デジタル放送から、来年2月いっぱいでC8局が姿を消すという。フランスのメディア王ヴァンサン・ボロレ傘下である同局に、メディア規制機関のARCOMが放送権を更新しなかったのだ。 【写真】フランスで、反動保守の資産家がメディアを相次いで買収!? 問われる報道の独立性。 ボロレはフランス国内8位の資産家で、反動保守の政治姿勢で知られる人物。2000年頃からメディアに次々と触手を伸ばし、大手テレビ局CANAL+グループのほか、多数の雑誌を発行するプリスマ・メディアを傘下に収め、昨年には「パリ・マッチ」、「JDD(日曜ジャーナル)」紙やラジオ3局、複数の出版部門を持つメディアグループ、ラガルデールの買収を果たしたばかりだ。彼の相次ぐメディア買収で危惧されているのは、自らの反動保守姿勢を反映するために人事や編集方針に影響力を駆使する点だ。
彼の現場へのテコ入れは過去にさまざまな波紋を投げてきた。テレビ局CANAL+では15年、政治風刺が人気の看板番組「Les Guignols de l'Info(パペットニュース)」の放送作家の首を挿げ替えて骨抜きにしてしまった。これは当時、風刺の標的だったサルコジ元大統領の意向を汲んだものと噂されている。昨夏には、「JDD」紙のトップに極右オピニオン誌「ヴァルール・アクチュエル」の元編集長を迎えることを決定。編集姿勢に反するとして編集部が2カ月にわたるストライキを敢行したが決定は覆らず、半数以上のジャーナリストが同紙を去ったのは記憶に新しい。 選挙戦が続いて極右躍進が話題となった今年6月には、4局あるニュース専門局の中で、CANAL+グループのCNEWSが視聴率トップに躍り出た。ボロレが率いるCNEWSとC8の右傾ぶりはもはや周知の事実。移民差別発言、温暖化をはじめとする各種の懐疑論、政治番組では極右登壇者の優遇などが指摘されている。報道倫理を管理するARCOMが昨年以来、この2局に与えた警告や処罰は15項目以上。ことにC8のトーク番組「Touche pas à mon poste!(俺の番組に手を出すな)」の逸脱は再三指摘されており、放送権非更新は当然という意見も多い。これらの番組が極右の躍進を後押ししているのは否定できないだろう。 10月1日にはLVMHグループがボロレ傘下だった「パリ・マッチ」誌の買収を完了。同グループもまた「ル・パリジャン」紙、「レゼコー」紙のほか、ラジオ局も手中に収めている。資産家によるメディア買収が徐々に進み、主要全国紙やテレビ、ラジオの多くがひと握りの資産家の傘下に入っているフランス。オーナーの影響力とメディアの独立性が、あらためて問い直されている。 *「フィガロジャポン」2024年11月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)