《ブラジル》世界のカケハシ=日本から「先祖訪ねて三千里」=先祖サーチで移民の大伯父判明=世代を超えて親戚14人と対面
墓石に描かれた蝦夷富士=半世紀ぶりに約束果たす
再会を果たした翌々日、山口さんははいとこにあたるヴィトルさん(39歳)と先祖が眠るサウダーデ墓地へのお墓参りをした。 墓石の正面には森越しに見た富士山のような山が描かれていた。山口さんはこれを見て「あっ、これは蝦夷富士(羊蹄山)だ」とピンと来たという。左右に描かれた樹木が針葉樹だったからだ。今朝松さんは最後まで故郷北海道を愛し、地球の反対側で自らの墓石に描かせていた。 山口さんは「日本の今野家を代表してお参りできた」と達成感をにじませ、墓地の違いを通じても日伯の文化差を楽しんでいる様子だった。 初めて知った事実もあった。実は今朝松さんとタカさんは1971年7月末、北海道に帰省していたという。その事実を裏付けるかのように、今回の旅で、ブラジル側の親戚が持っていた日本での写真が見つかった。そこには山口さんの従兄弟の豪人さんが赤ちゃんだったころの姿が映っていた。 ヴィトルさんは「今朝松さんは日本の家族の『ブラジルに遊びに行くから』という言葉を信じていた」という。しかしその後、誰も訪伯が実現できず、53年後に世代を超えて、山口さんがその思いを果たすこととなった。 日本で山口さんがこの事実に辿り着かなかったのは、2016年の南富良野水害で過去の写真や手紙が流されてしまったからだ。そうした経緯もあり、日本に残る親族もこの約束を知らなかった。 さらに、書類上では知りえなかった親戚にも出会うことができた。また、日本側もブラジル側も知らない親戚の写真もあり、日伯それぞれの今野家が詳細を探っているという。 こうした多くの発見を得た山口さんは今回の訪伯が「想像していたよりも実りあるものだった」と喜び、「日々、生活に精一杯で先祖の話をする機会が今までなかった。しかし、今回の先祖探しを通じて、日伯で家族が再結束するきっかけになった」と振り返る。「母を訪ねて三千里」ならぬ「先祖を訪ねて三千里」の旅は、予想を超えて充実したものとなった。「自分の子どもをはじめとして先祖の経験を語り継ぐと共に、家族の絆を大事にしていきたい」と話し、再来伯を約束して日本へ戻った。