多様化する「恋愛演出」の現在地、“乾いた”愛情表現がトレンドのなか“ド直球”は再び主軸と成り得るか?
■多様な愛情表現は“先人”たちも創作、夏目漱石が表現した「月が綺麗ですね」は令和にこそフィットする?
一見、ストレートな愛情表現が陰りを見せ、乾いた恋愛表現が最新トレンドという風潮に見受けられるが、日本のエンタメコンテンツの愛情表現は様々なパターンがあり、多様性がある。これは、日本の国民性である“奥ゆかしさ”に起因するところも大きい。 文豪・夏目漱石は、英語教師時代に「I LOVE YOU」を日本語訳にする際、「我、君を愛す」と訳した生徒に注意し、日本人ならば「月が綺麗ですね」と表現せよ、と言い放った逸話が有名だ。英語はもちろん、漢文や漢詩にも精通していた漱石は、それを日本語に訳す際、文化の違いによって様々な表現方法が存在すると感じていたのだろう。 実際、韓流ドラマのようなストレートな愛情表現を演じる際、日本人キャストでは違和感が生じることがある。時には“キザ”といった言葉も挙がるだろう。だが日本は古来より舶来文化を喜んで受け入れる文化があり、日本女性も海外の男性からストレートな愛情表現をされることに抵抗がない。つまり異文化であることがある種の“免罪符”になっており、ストレートな愛情表現も自然な流れで受け止められるのだ。 先ごろ、漫画表現をネクストステージに押し上げた一人である鳥山明さんが急逝した。誰もがインターネットで自らが紡ぐ物語を発信できるようになった今、先人たちが築き上げてきた英知を活かし、今後もさまざまな“新手”が良質なクリエイターたちによって生み出されていくだろう。どのような「時代に愛される」キャラクターたちが誕生していくか? そして、どのようなアプローチによる新たな愛情表現が生まれるのか? アニメ・マンガ大国である日本だからこそ生み出せるキャラクターや展開は、今後も大きなアドバンテージとなるだろう。 (文/中野ナガ)