多様化する「恋愛演出」の現在地、“乾いた”愛情表現がトレンドのなか“ド直球”は再び主軸と成り得るか?
■ストレートな“恋愛表現”は韓流作品の独壇場に?
一方で、ストレートな“恋愛表現”を担っていくことになるのが韓流作品だ。古くは『冬のソナタ』に端を発し、『愛の不時着』(2019年)のブーム、その後も『ユミの細胞たち』(2021年)、『わかっていても』(2021年)など、常に良質な恋愛作品を量産。特に近年は韓国発の恋愛マンガを原作とした映像化(『ユミの細胞たち』、『わかっていても』など)も多いことから、エンタメコンテンツ全般で韓流恋愛モノの強度を物語っている。 「韓流作品を語る際、その国民性を避けて語ることはできないと考えます。“乾いた”方向に舵を切った日本社会と比べ、韓国の国民は非常に“感情”を強く重んじており、それが日本少女漫画界の「花の24年組」が模索した“心情”を描くことと非常にリンクしています。『愛の不時着』『梨泰院クラス』をきっかけに韓流作品に触れた人の感想で印象的だったのは、“キャラクターの設定や展開が新しい”だったのですが、これは80年代以前の日本での恋の描き方に近く、“乾いた”時代に生きる日本人にとっては逆に新鮮だったのではないか」(衣輪氏)
■近年のマンガ作品の傾向とキャラクターの変遷
さて、そこで日本だ。韓流の根底の一つである日本の人気マンガの傾向、人気キャラクターの近年の傾向はどのような流れにあるのか? 総合電子書籍ストア『ブックライブ』が主催する“マンガのキャラクター”を讃えるマンガのアワード「マガデミー賞2023」を参考に見ると、実に多様性に富んでいることがわかる。 「まず主演男優賞を受賞した『薫る花は凛と咲く』の紬 凛太郎。彼の見た目は怖くて不良っぽいが、仲間思いでヒロインを驚くほど大切にしています。いわゆる“内柔外剛”と呼ばれるパターンで“誤解されがちなんだけど、実は純粋で優しい”という鉄板ジャンル。このギャップ萌えは同賞ノミネートの『山田くんとLV999の恋をする』の山田秋斗も同様であり、さらには作中に『シンデレラ』を彷彿とさせる演出も。つまり“古典”を下敷きにしています」 「また面白いのは助演男優賞のヒンメル『葬送のフリーレン』と助演女優賞の一条花『アオアシ』。この2人は登場頻度がかなり低いにもかかわらず強い印象を残し、作品のテーマそのものに寄り添っていたり、物語を動かす起点となっていることで共通。またヒンメルは意味深の指輪をフリーレンにはめてあげる、また一条花はドラマティックに主人公にアプローチする姿も。どちらもあまり出演しないが、強力に心に残る脇役というのは昨今のトレンドかもしれません」 さらに今年は“悪役令嬢”ものが多くノミネート。“悪役令嬢”とは乙女ゲームに登場する悪役・サブキャラに転生するパターンのものが多く、そのゲーム内容をよく知っているがゆえに自身の身に降りかかる破滅を回避しようとする物語展開が好評を得ている。 「“悪役令嬢”の台頭は異世界転生ものと同じく、“やり直す”“自分の手で変えていく”爽快感があり、暗いニュースばかりで一向に社会の行き詰まり感が拭えない現代日本において、“物語の中だけは”変えていきたいというニーズが背景にあるでしょう。また『悪役令嬢の中の人~断罪された転生者のため嘘つきヒロインに復讐いたします~』のレミリアを見ればわかるように、“悪”の魅力で絶体絶命の状況を変えるなど、これまでサブだった役柄がメインになることで多くの展開が新たに生まれています。“悪役令嬢”自体が、非常に強度が高いため、その皿に入れてしまえば、『純愛』も『ギャップ萌え』も『ハーレム』ものもいける。実は恋愛表現においても非常に汎用性が高いです」(衣輪氏)