「パチンコで軍艦マーチに引き寄せられていくあの感覚…」 資産7億円の億り人投資家がかつて経験したオプション取引の手痛い失敗「他の儲け分をすべて飛ばした」
清掃先の会議室で掃除機をかけながらこっそりとラジオたんぱに耳をそば立てると、先ほど150円高だった日経平均は350円高になっていた。掃除機をかけている間に、自分の資産は吸い取られていた。投機筋の仕掛けだったようだ。 オプションの吸引力は強力だ。わずかな値動きだけで簡単にお金が吸い取られていく。しかも、ワラントやオプションで失敗しても、「投機的な動きが入ったせいだろう」とその原因を突き詰めることがなく、簡単にスルーしてしまうから、いつまで経っても成績が安定しない。 株は違う。株価が暴落したら理由がある。決算書やニュースを見れば答えがわかる。 株で負ければ将棋で負けたのと同じで定跡書の研究が足りず、詰め将棋を解いた数が足りず、要は努力が足りていなかったのだと、悔しさが残る。全人格を否定された気分になる。 しかし、オプションで負けても軽いノリで「次、行ってみよ~」と思えてしまう。 この年には日経225オプションで200万円、さらにワラントでも30万円ヤラれ、合計230万円がマネーゲームの掃除機に吸い取られた。ほぼ2年分の貯蓄だ。それだけヤラれても、心には(おかしな方向への)前向きさが残る。この気分は何かに似ている。 パチンコだ。いくら負けても「あと1000円だけ」「もう少しで出るから」と、軍艦マーチに引き寄せられていく、あの感覚だ。
投機への欲望は抑えつける必要はない、しかし…
オプション口座を開設するとき、受付嬢は「個人投資家の90%はヤラれてしまうんですよ」と言っていた。(またカモがヤラれに来た)という受付嬢の心の声が聞こえるようでもあったが、自分はヤラれないほうの「10%」だと信じていた。 「株はそこそこ勝って儲かるが、ワラント(懲りずにまだ続けていた)やオプションで大損する」という状態は2002年頃まで続いた。 欧米の投資家を描いた名著『マーケットの魔術師(株式編)』(ジャック・D・シュワッガー、パンローリング)にある、私が尊敬するスチュアート・ウォールトンの言葉を引用してみたい。「ギャンブルしたいという衝動があるのです。これを満足させなくてはならないのは、ずいぶん前に悟りました。しかし、限定的な方法でなければならないと思っています。従って、ファンドの中には少額の資金を用意して、この衝動を満足させられるようにしています」 ギャンブル的な衝動は無理に抑えつける必要はない。ただし、「限定的な方法で」「少額の資金」で満足させなければいけないのだ。それなのに、私はメイン口座でギャンブルをしているのだから、話にならない。日経225オプションでは1996年の儲け分をすべて飛ばしていた。 投資のすぐそばにはギャンブルという魔物が寄り添っている。自分が魔物にたまらなく魅力を感じてしまう気質だということも。 何度痛い目に遭っても学ばない、博打気質のせいで2002年頃まで資産は600万円から1000万円の間をずっと推移することになる。 株仲間と話すと「何か知らんが、www9945はいろいろな金融商品のことをよく知っている」と言われるのは、常識人が手を出さない投機的な商品に欲に駆られ何度も手を出し、痛い目に遭ってきた経験があるからだ。 多分、ギャンブルへの衝動は多かれ少なかれ誰にでもあるだろう。その衝動を無理に抑えつける必要はないが、だが、くれぐれも「限定的な方法で」ということだけは忘れないで欲しい。