「落語家で僧侶」「クリスチャンとの結婚」多様性と向き合ってきた女性落語家
落語家であり天台宗の僧侶でもある露の団姫(つゆのまるこ)さん。夫は太神楽曲芸師、小1の息子を持つママでもある。そんな彼女は、落語という古典芸能の世界で「ピンクの着物を着た方がいい」「女の子らしい落語をするべき」といった性別に関連した心無い言葉を投げられ、生きづらさを感じてきたという。さらに、落語家になったのちに僧侶として出家する際や、クリスチャンの夫と結婚する際にも多くの非難を浴びた経験を持つ。そういった世間の声とこれまでどう向き合ってきたのか、話を聞いた。(ジャーナリスト・中村竜太郎/Yahoo!ニュース Voice編集部)
「女だから」と性別を理由にされた落語家修行
――落語家になった経緯は? 露の団姫さん: 落語は小さい頃から好きだったんです。僧侶も落語家もどちらもなりたいと思っていたんですが、高校一年のときに落語家の師匠に弟子入り志願しました。師匠に「今すぐ来なさい」と言われたら高校中退して入門しようと思っていたんですけど、師匠が「高校だけは出とき」って言われたので、高校卒業してすぐに入門しました。 ――落語の世界は厳しいですよね? 露の団姫さん: めちゃくちゃ厳しかったです。もう一回修行をやれと言われたら、ちょっと無理だなと思いますね。知らないから飛び込めたっていう面が大きいのかなと思っています。特に女性落語家は人数が少ないため、居づらいと思うこともありました。お客様から「女性の落語は聞きたくない」とか、ある意味で色物的な扱いを受けることもありました。あとは「ピンク色の着物を着なさい」ってよく言われましたね。「女の子だからピンク色の着物を着たほうが得やし、お客さんもそういうのが見たい」「女の子らしい落語しなさい」とよく言われたんですね。そういうことが非常に多かったので、それもしんどかったです。 常にへこんでて、怒っていました。「女のくせに」とか「女だからその仕事を与えてもらえたんや」とか、私が頑張ったことや、私が得た成果というのを、その性別を理由にどうこう言われるのが一番悩ましい。 性別って自分で選んで生まれてきたわけじゃないですよね。それを「女のくせに」「女だから」って言われると、私、どうしようもできない。そういうふうに理由づけされたり、それで居場所を奪われるのが本当につらかったです。 ――どうやって乗り越えたんですか? 露の団姫さん: まずは、やり続けることでした。私が「女だから」っていう声に負けて、自分の信念を捻じ曲げてやっていくようだったら、私自身も自分らしい生き方ができない。それと、私のあとに入ってくるであろう、女性落語家がみんな生きづらくなると思ったんですよ。だから「私の問題は私たちの問題」と思うようにして、私が頑張ることが後々の道を広げるというふうに自分を励ましてきました。 今では女性落語家も増えてきましたし、私の場合は、お経の内容を落語でわかりやすく知っていただく“仏教落語”をやるという意志がはっきりしていたので、そのおかげで前に進んでいくことができました。 ――落語家になったあと、僧侶の修行に行かれたんですね。 露の団姫さん: 私は小さい頃から、人間は死んだらどうなるのかと思っていて、火葬されたら魂はどこへいくのかなと考えるような子でした。中学生になって宗教に関心を持ち、聖書やコーラン、神道、仏教の勉強をしていくうちに、法華経という教えの中にあるお釈迦様のメッセージに感動し、信仰を持つようになりました。また高校時代にあることで真剣に悩みまして、それを解決に導いてくれたのもそうした教えだったので、いつか僧侶になりたいという気持ちが芽生えたんです。 最初、落語の師匠には、将来お坊さんにもなりたいっていうことは内緒にしていたんです。私がまず本気で落語をするということを知っていただいたうえでないと、こういうことは言ったらいけない。3年間の落語家修行が終わってから、「お坊さんになりたいです」と頼みに行こうと思っていたんですけれども、いろいろな順序を踏んで、2011年に天台宗で得度しました。 ――落語家と僧侶、どっちがやりたいんだと言われませんでしたか? 露の団姫さん: めちゃめちゃ言われましたね。まず、思いつきで出家をしたというふうに思われていました。私にこういう経緯があって、信仰があってなりたいと思っているのだとは理解されず、「何か注目を集めたい」とか「売名行為で出家した」と、いろんなところから言われました。落語家の師匠は、私が「お坊さんになりたいんです」とお話ししたときには「わかってた。だから行ってきなさい」というふうに背中を押してくれました。 結果、落語家と僧侶の二刀流になって本当によかったと思います。誤解されたのは大きな苦しみではありましたけど、自分がいろんな活動を通して、みなさんに知ってもらえたらいいかなと思うようになりました。