国立大学の経営スリム化とイノベーションの創出は両立できるか?
国の予算が適切に使われているかどうかを点検する「行政事業レビュー」で、大学運営への予算増額を求める文部科学省に対し、評価者は「人材マネジメントができていない」「目標設定があいまい」などとこれまで投入した国費が効率的に使えていないと判断した。文科省幹部は「まったく現状が理解されていない」と異例のクレームを付ける事態に発展。国家予算がひっぱくするなか、大学経営のスリム化とノーベル賞受賞に象徴されるような国力としての教育への投資は両立できるのか。 国立大学で若手研究者が減少、「40代でも先見えないのが普通」の声
色をなした文科省幹部
今月11日、財務省の関係者らが見守るなか、東京都内で行われた「行政事業レビュー」。構造改革の旗振り役として知られる竹中平蔵氏の教え子だった教育経済学者の中室牧子氏ら5人の評価者は「国立大学法人に移行してから12年余りだが、環境の変化に対応した大学の改革は大きく立ち遅れている」 と文科省がかかわってきた事業への成果をこう批判し、結論づけた。 この結論に対し、文科省の常盤豊高等教育局長は気色ばんだ。「私どもの説明やここでの議論を全く反映していない。国立大学の改革が12年間で全くすすんでいないという認識は大きく世の中に対して誤ったメッセージを与える。改めたほうがよい」。 こうした事業レビューの場で、省庁の幹部が評価者が下した結論にクレームをつけるのは異例だ。ここでのやりとりが、予算の配分を決める財務省の印象や心証に大きく影響するため、異論をはさまないわけにはいかなかったのだろう。
文科省が示した補助事業の目的や指標に「あいまい」の指摘相次ぐ
今回、レビューの対象になった文科省が求める補助事業は「改革基盤強化促進事業」(80億円)と「改革強化推進事業」(90億円)の計170億円。国立大学の教育環境や研究装置といった施設の整備のほか大学間連携やガバナンス改革を進めてきたものだ。 全国の国立大学に今年度交付された「運営費交付金」の額は1兆945億円だが、毎年約100億円が減額されてきている。同交付金は、大学が得る収入のうち3~4割を占めるため、影響は大きい。このため、引き続き補助金が獲得でき、しかも増額が実現すれば負担が減る。 事業レビューでは、文科省の担当者が「各大学の取り組みの達成度に応じて運営費交付金を重点配分したり、強みを生かした組織改編を促したりして改革している」と主張。加えて「任期なしの雇用などに充てられる運営費交付金の減少によって、若手の雇用が任期付きのポストばかりになり、キャリアパスが不透明になったことから博士課程の進学者減少につながっている」と訴えた。 しかし、事業レビューの評価者は、「補助金が実現しようとしている目的が漠然としすぎている」などと指摘。お金がかかることばかりを要求していることに苛立ちを見せた。むしろ、大学はお金を必要とする研究装置の設置や施設の整備の事業数を目標にするのではなく、論文の被引用数や特許数など具体的な定量的な目標を設定するべきだと進言した。 運営費交付金が減少し、若手が減少している点についても「仕事の仕方や人的マネジメントが変わってないのでは。追加でお金がもらえないと若手のポストが確保できないというのは法人化から12年たった中で説明がつかない」などと批判がとんだ。 事業レビューを実施した内閣官房行政改革推進本部事務局によると、文科省が継続を求めている事業の費用対効果の検証結果は11月中にまとまり、その後、財務省が予算の配分を決めるという。