東京駅開業100周年記念Suica騒動 ── その原因を考える(鉄道ライター・伊原薫)
先週末、大きな話題となった「東京駅開業100周年記念Suica騒動」。JR東日本は22日、「今後増刷しご希望の皆さまに発売いたします」とのプレスリリースを発表しました。今回の騒動は一体どこが問題だったのか、その原因を改めて考えてみましょう。
1万5千枚を求めて、一時は1万人が駅周辺に殺到
今回の記念Suicaは、その名称の通り東京駅の開業100周年を記念して製作されました。JR東日本の女性車掌がデザインしたもので、特製台紙とセットになっています。発売額は1枚2千円(デポジット500円を含む)で、1万5千枚を製作。20日の午前8時から、1人3枚までの限定で販売することになっていました。 このSuicaの購入を希望する人たちは、前日の夕方からすでに集まり始めていました。JR東日本は「前日から並ぶことはできません」とポスター等に表記していましたが、前日の終電発車前にはすでに長蛇の列が。当日の始発電車が動き出した頃から爆発的に増え、午前7時の時点で8千人を超える人たちが集まりました。 このため、東京駅では予定を早めて午前7時過ぎより販売を開始しますが、その後も人は増え続け、一時は1万人を突破。行列は東京駅周辺を取り囲み、車道にはみ出したり駅舎内で身動きが取れなくなるなど危険な状態となったため、警察まで出動する騒ぎとなります。結局、約半数の8千枚を販売したところで、午前10時前に販売を中止。並んでいた人たちの中には販売中止に納得できず、駅員に詰め寄る人が続出、怒号が飛び交い一時は騒然となりました。
少なすぎた数量と少なすぎた人員
今回の騒動の原因の1つは、JR東日本の甘すぎた見通しにあるでしょう。今回製作された記念Suicaは合計1万5千枚で、JRでは過去の販売事例などを参考に、購入に並ぶ人の数を最大5千人と想定。しかし、実際にはその倍近い人たちが集まったことになります。 1万5千枚という枚数が妥当だったかどうかは判断が分かれるところです。8年前に東京駅のみで発売された記念Suicaは1万枚と、今回よりも少ない数でした。また、2010年や2013年には、他社のICカードとの相互利用開始を記念して各3万枚が製作されましたが、これらは発売駅が多く、東京駅の割当数は今回の発売数より少なくなっていました。この点だけ見れば、今回の数量は単独駅での販売数量としては異例の多さと言えるでしょう。 しかしながら、これまで発売されたこれら記念カードが必ずしも十分な数量だったかというと疑問です。相互利用開始記念カードでも、多くの駅では発売前に長蛇の列ができ、「並んでも買えなかった」という状態も見られました。極端な例ですが、今年10月に吾妻線の一部駅でSuicaサービス開始に伴って発売された記念Suicaは、発売された3駅合計でわずか800枚。各駅の割当は200~300枚で、始発から並んだにもかかわらず購入できなかった人が続出しました。 対して、他社での記念カードの数量はどうかというと、前述の2013年相互利用開始記念カードはJR西日本の「ICOCA」が5万枚、JR東海の「TOICA」が1万枚でした。エリアの規模を考えると、JR東日本の3万枚は決して多い数ではないでしょう。つまり「予想より人気があった」という以前に「絶対的に足りていなかった」とも言えます。 そして、購入希望者をさばく人員も足りていませんでした。前夜から当日までの購入希望者のツイートには「駅員の案内がなかった」「どこに並べばいいのか判らなかった」という発言が多く見られます。JRは十分に対応できる数の駅員を配置したとしていますが、殺到する人を捌くことができず、最終的には約100人の警察官が出動する事態となりました。