東京駅開業100周年記念Suica騒動 ── その原因を考える(鉄道ライター・伊原薫)
「正直者がバカを見る」状態が原因の一つ
次の原因は、JRが取った「不公平な対応」です。先に書いた通り、JRはポスターなどで「前日から(徹夜で)並ぶことはできません」と告知していました。にもかかわらず、前日夜から並んでいる人々に対し、駅員は「列の最後尾」と書いたプラカードを持って誘導。徹夜組を「黙認」どころか当然として対応したのです。この徹夜組は終電後も増え、始発電車が東京駅へ着く頃にはその数は数千人に膨れ上がっていました。 さらに悪いことには、これら徹夜組はほとんど全員が記念Suicaを購入できたにもかかわらず、ルールを守って「当日参加」した人たちは大半が購入できなかったという点です。いわば「正直者がバカを見た」わけで、購入できなかった人たちの不満が爆発したのもある意味当然かもしれません。
本当に欲しい人が買えなかった?
そして、今回の出来事をある意味もっとも象徴しているのが、発売直後からオークションサイトで見られた「転売行為」です。サイトでは多くの記念Suicaが出品され、中には数十万円という価格で落札されたものもありました。 今回は1人3枚まで購入可能だったこともあり、1枚を自分用に、残る2枚をネットで転売して・・・と考える人がいてもおかしくはないでしょう。こうした転売行為はれっきとした犯罪なのですが、現状はほとんど野放し状態です。 中には「バイト」を雇って前日から並ばせ、入手したカードを高値で売りさばく輩もいるようで、前述の吾妻線エリア拡大記念Suicaの販売時には、外国人がバスで乗り付け、購入したカードを次々と「リーダー」に渡すシーンも見られたそうです。 記念Suicaに限らず、最近では「トワイライトエクスプレス」などの寝台券でも転売行為が横行しています。数量限定という「プレミア」をJRがつけることで、ダフ屋にとっては更に「美味しい」状況が生み出され、一方で本当に欲しい人が買えないという事態に陥っているのです。
「誰もが気軽に買える」からこその記念品?
何度も書きますが、今回の記念Suicaは東京駅の開業100周年を記念してのもの。東京駅と言えば日本を代表する駅であり、毎日利用する人はもちろん、様々な人が思い入れを持っていることでしょう。そんな駅の記念カードが1日、それも数時間で完売するような数量しか販売されないというのは、どこかおかしい気がします。 昨年3月に全国相互利用サービスが始まり、いまやSuicaはJR東日本管内のみならず、全国で使うことができるようになりました。もっと多く製作し、しばらくの間販売できる数量を確保して、冬休みに東京へ来た人がお土産代わりに買うことができる、そんな形態にはできなかったのでしょうか。 今回の発売中止を受けてJR東日本では、冒頭に書いた通り記念Suicaの増刷を行い、希望者全員が購入できるようにすると発表しました。具体的な枚数や販売方法は未定ですが、日本を代表する駅だからこそ、日本一の鉄道会社として名誉挽回となる対応を期待したいところです。 ■伊原薫(いはら・かおる) 大阪府生まれ。京都大学大学院・都市交通政策技術者。(一社)交通環境整備ネットワーク会員。グッズ制作やイベント企画から物書き・監修などに取り組む。都市交通政策や鉄道と地域の活性化にも携わっている。好きなものは103系、キハ30、和田岬線、北千住駅の発車メロディ。