中国がNVIDIAを標的に、狙いは米新政権との交渉土台
中国政府が米半導体大手のエヌビディア(NVIDIA)について、独占禁止法違反の疑いで調査を開始した。その1週間前、バイデン米政権は対中半導体規制の強化版を発表しており、これに対抗する狙いがあるとの見方が出ている。 ■ 中国当局の調査、内容詳細不明 中国の独占禁止法当局である国家市場監督管理総局(SAMR)は、エヌビディアが2020年にイスラエルのネットワーク企業「メラノックス・テクノロジーズ」を買収する際、中国当局が課した承認条件に、エヌビディアが違反した疑いがあるとしている。 ただ、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)などの米メディアによると、中国当局は、エヌビディアが具体的にどのような違反行為を行った可能性があるのか、なぜ承認から長い時間が経ってから問題を提起したのか、理由を説明しなかった。20年の合意では、エヌビディアは6年後に条件の解除を申請できるとされていた。 中国の独禁当局は、たとえ中国との関係が薄い取引であっても、世界的な企業合併に影響を及ぼすことができる、過去には、米インテルによる50億米ドル超(当時の為替で約6200億円)のイスラエル・タワーセミコンダクター買収計画を、合併審査を利用して阻止したこともある。 エヌビディアの広報担当者は今回の中国当局の動きに対し、「顧客はどの企業の半導体を使用するかを自由に選択でき、当社は製品の実力で勝利を収めている」と反論した。「規制当局が当社の事業について質問があれば、喜んでお答えする」とした。
■ 米政府、対中半導体規制の強化版 これに先立つ24年12月2日、バイデン政権は先端半導体に関する中国への輸出を制限する新たな対中規制を発表した。米政府はそれまでエヌビディア製GPU(画像処理半導体)など、AI(人工知能)向け先端半導体や半導体製造装置を中国などの「懸念国」に輸出することを禁じていた。 今回は、(1)AI向けのHBM(広帯域メモリー)の中国への販売を制限し、(2)中国が利用できる半導体製造装置の範囲を狭めた。(3)加えて、既に中国・華為技術(ファーウェイ)などを対象としている、取引制限リスト(エンティティーリスト、EL)に中国140社を追加した。(4)米国製技術を使用した外国製品に対して、中国への輸出時に米政府の許可が必要になる「外国直接産品ルール(Foreign Direct Product Rule、FDPR)」の対象も拡大した。 ■ 中国の対抗措置、半導体主要材料の輸出規制強化 この対中輸出規制の強化を受け、中国は先端半導体や軍事装備品の製造に使われる主要原材料の輸出規制を強化すると発表した。また、中国の主要業界団体は、同国企業に対し米国製半導体の購入を控えるよう警告した。 今回のエヌビディアに対する独禁法調査について、米・南カリフォルニア大学の法学教授で『Chinese Antitrust Exceptionalism(中国の反トラスト例外主義)』の著者であるアンジェラ・チャン氏は「米国で最も価値の高い企業の1つを標的にすることで、中国は自国の報復能力を示し、米国のさらなる攻撃的行動の抑止を狙う」と述べている。 チャン氏によると、「それでも中国は自らの対抗措置が米中間の経済的なデカップリングをさらに進める結果となり、ブーメラン効果が生じる可能性があることを理解している」という。このため、「中国はこのような手段を限定的に使うだろう」(同) 一方、米調査会社ユーラシア・グループ社長で国際政治学者のイアン・ブレマー氏は「中国の動きは、米新政権との大規模な交渉の土台になる可能性がある」と分析する。しかし、「これはトランプ陣営が交渉に応じる場合にのみ機能し、現時点でその行方は見通せない」(同)とも指摘する。
小久保 重信