日銀「12月に利上げ後、25年に1%到達」、エコノミストが自信を深めるワケ
11月の講演で植田総裁は何を語った?
11月18日に植田総裁は名古屋において講演を実施した。講演原稿には、12月の追加利上げをより強く意識させるような表現は含まれていなかったが、一方でリスク要因に対する警戒感も強まっておらず、全体として中立的であった。これは時間の経過とともに利上げ確率が高まっていることを意味する。繰り返しになるが、日銀は経済・物価が(日銀の)見通しに沿って推移することを「オントラック」と表現しており、それを事実上、追加利上げの条件としているためだ。 植田総裁は「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えています」、「毎回の金融政策決定会合では、その時点で利用可能なデータや情報などから、経済・物価の現状評価や見通しをアップデートしながら、政策判断を行っていく方針です」という従来の方針を再確認した。 また、「実質金利の水準を見ますと、物価情勢が好転するもとでも、極めて低い名目金利の水準を維持していることから、2010年代と比べてもマイナス幅が拡大しており、金融緩和の度合いはむしろ強まっていると評価できます。今後、経済や物価の改善に合わせて、金融緩和の度合いを少しずつ調整していくことは、息の長い成長を支え、『物価安定の目標』を持続的・安定的に実現していくことに資すると考えています」、「金融緩和の度合いの調整を実際にどのようなタイミングで進めていくかは、あくまで、先行きの経済・物価・金融情勢次第です」などと発言した。 大半の言及は既出の論点、表現であり、この点においても「オントラック」であった。
整いつつある利上げの基盤
改めて個人消費の基調判断が「オントラック以上」になっていることを思い出す必要があるだろう。 民間エコノミストの中には、個人消費の弱さを理由に日銀が利上げをちゅうちょすると予想する、あるいはそうすべきだと主張する声もあるが、日銀は9月に個人消費の基調判断を「底堅い」から「緩やかな増加基調にある」に上方修正している。 日銀が常時用いている実質消費活動指数のグラフ(青線)は、かなりひいき目に見れば緩やかに増加しているようにも見えるが、前年比では微減であり「緩やかに増加していない」が妥当に思える。しかも、直近ボトムの2024年1月は自動車の供給制約による新車販売の減少、直近数カ月の持ち直しは定額減税という一過性要因があるため実力とは言い難いものがある。 日本の潜在成長率が0%台半ばという非常に低い数値であることを踏まえても、中立的に考えれば、現在の個人消費を「増加基調」と判断するのは、何か特別な意味があるのではと勘繰ってしまいたくなる。筆者は利上げに向けた理論武装の一環ではないかと思っている。 そして賃金上昇も引き続き注目される。9月の毎月勤労統計(共通事業所)によれば、現金給与総額は前年比プラス2.9%と強い伸びを示した。所定内給与(≒基本給)は同プラス2.7%と堅調な伸びを維持しており、賃金の基調を把握する上で重視すべき一般労働者(≒正社員)の所定内給与は前年比プラス2.9%と高い伸びを保ち、2022年以前との比較では飛躍的な伸びを記録している。これらの数値は、2%の物価目標に対しては十分過ぎる伸びと言える。 このように国内の賃金、物価が日銀の見通しどおりに推移し、同時に米国の景気後退懸念が和らいでいる現在の状況を踏まえると、日銀が利上げに向かう素地(そじ)は整いつつあると判断される。
執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 藤代 宏一