長野県で「淫行条例」が成立 罰則適用など課題残す
全国で唯一、罰則付きの淫行条例がなかった長野県で、青少年との性行為を処罰する「子どもを性被害から守るための条例案」が6月定例県議会最終日の7月1日、本会議で賛成多数で可決、成立しました。処罰規定は11月1日施行。これまで50年余条例を設けず「県民運動」で青少年対策に取り組んできた長野県の大きな方針転換で、今後も罰則の適用などをめぐり論議が尾を引きそうです。 【写真】淫行条例化めぐり長野で続く議論 誇りだった「県民運動」見直しの是非は?
2年以下の懲役、または100万円以下の罰金
条例は性教育の充実や性被害への対応など総合的な対策を組み込みながら、罰則部分では「何人も18歳未満の子どもに対し威迫し、欺きもしくは困惑させ、またはその困惑に乗じて、性行為やわいせつな行為を行ってはならない」とし、これを行った大人は2年以下の懲役または100万円以下の罰金を科すとしています。 また、保護者の依頼など正当な理由がないまま深夜(午後11時から翌日の午前4時まで)に子ども(18歳未満)を連れ出した場合は30万円以下の罰金としています。 これまでの県議会の論議では、性被害対策などは評価されたものの、罰則部分は「冤罪を招くおそれがある」「真摯(しんし=まじめ)な恋愛に捜査が介入するなど子どもの自由を奪うおそれがある」などの批判や慎重論が根強くありました。 しかし、県側はインターネットの普及などで性情報や見知らぬ人と子どもの接触の機会が増えて性被害に遭う恐れが大きくなっているとして「条例化は先延ばしできない」(阿部知事)と強い姿勢で臨んできました。 県議会終了後の記者会見で阿部知事は「県民運動に取り組んできた長野県としては県民の力を結集して性被害予防、被害者支援、罰則規定の運用を総合的に行うことで、子どもの被害が出ないように取り組みたい。他県の条例に比べて本県の条例は罰則の構成要件の明確化を図り、総合的に取り組んでいる点で全国的にも評価されるものだと思う」と述べました。
この日の本会議では条例案と修正案をめぐり賛否双方の議員が最後の討論を行い、賛成派は「証拠の少ない犯罪で冤罪のおそれなどが指摘されているが、通信アプリ、防犯カメラなどの活用でもカバーできる部分があり、その恐れはない」「県民運動の推進者からも条例の早期制定の要望がきている」などと主張。反対派は「恋愛など人間の心の中に踏み込む捜査が行われたり、冤罪のおそれがある」などと問題点を挙げました。 条例案の問題に取り組んできた長野市の弁護士は、「恋愛における言動にはさまざまな捉え方がありうる。「威迫」「欺罔(ぎもう)」「困惑」に当たるか否かの判断は難しい。この条例の問題点は、そうしたあいまいな部分の難しい判断によって刑事罰が科される点にある。またその判断のために捜査機関が恋愛関係に入ってくる。刑事罰を加える場合は(事実や状況の認定が)厳格でなければならない」と指摘します。
--------------------------------- ■高越良一(たかごし・りょういち) 信濃毎日新聞記者、長野市民新聞編集者からライター。この間2年地元TVでニュース解説