在宅医療、過度な期待で「ハラスメント」に発展…患者家族との向き合い方「最後は法律が助けになる」
●「応招義務あるからハラスメント我慢しなければ」悩む医師への回答
(2)「ハラスメントを受けている途中」 医師法で、正当な理由がなければ診療を拒否してはいけない(応招義務)と定められているため、医師からは「患者からのハラスメントもある程度我慢しなければいけないのではないか」との悩みが寄せられるという。 「ハラスメントを受けたら毅然とした態度で臨んでください。行うべき業務の範囲外のサービスを求められた場合は、他のサービスを紹介すれば十分です。厚労省は、犯罪行為やハラスメント行為などがあり、患者との間の信頼関係が喪失しているといえる場合には、診療を拒否しても応招義務違反にはならないという考えを示している(令和元年12月25日通知 )ので、あまりにひどいハラスメントであれば、その場から離れても法的責任を負う可能性は低いと思われます」
(3)「起きた後」 「組織全体で事実関係を調査の上、ハラスメント行為が発生したと認定できるのであれば、 患者側に文書で警告をしましょう。軽度のハラスメントでも、それが繰り返されれば、信頼関係が喪失したとして、サービス提供の拒否が認められる可能性もあります」
患者側との間で紛争が生じ、仮に訴訟に発展した場合、客観的な記録が証拠として有効にはたらく。上記のような文章でのやり取りは、「言った言わない」の揉め事を避けられるだけでなく、訴訟の場において、重要な証拠として役に立つ。 「患者が治療方針に全く従わず、罵詈雑言を浴びせ続けられた歯科医師が診療を拒否したケースで、この診療拒否に正当な理由があると判断された裁判例も存在します(東京地裁平成29年2月9日判決)」
●医療従事者に過度な期待とサービスを求める患者家族
周弁護士は「実際に相談を受けている事案の中には、担当者が患者の家族からの言動を理由に精神的苦痛を受け、それを理由に転職を検討しているものもあります」と述べ、ハラスメントが医療の継続にまで大きな影響を及ぼしていると指摘する。 実務上の体感では、患者本人からはもちろん、その家族からのハラスメントが問題となるケースも多いという。 「患者や家族は、病気や怪我を抱え、少なからずストレスを感じています。それがエスカレートし、病院側に対して過度な対応を求めるようになるケースもあります。自分たちの苦労を病院側にも知ってほしい、これだけ面倒を見ている自分と同じくらい世話をしてほしいと思うのかもしれません。病院側としては、できないことはできないと、毅然とした態度で臨む意識が重要です」