隣にいたボランチの“お手本”遠藤保仁の凄み。橋本英郎が語る、プロで生き残る術とは
同世代の小柄なユーティリティプレイヤー・酒井友之の強み
堀井さんに言われて、一人思い出した選手がいました。私と同じ1979年生まれで、黄金世代の一員としてワールドユース準優勝にも貢献した酒井友之です。ジェフのアカデミー出身の酒井は、身長170センチあるかないかの小柄な体格なのに、ボランチとして存在感を示し、才能ひしめく世代のレギュラー格として活躍していたのです。正直私には酒井のすごさがイマイチわかっていませんでした。なぜ起用されるのか? ワールドユースでは、フィリップ・トルシエ監督が右サイドハーフにコンバートしてまで酒井を使い続けたのはなぜなのか? それが「ポジショニング」という視点を手に入れてからはっきりとわかったのです。 酒井は、育成年代のときから相手のプレーの特徴や立ち位置を頭に入れた上で、効果的なポジショニングをしていました。考えているといっても、当時の私はプレーを先読みする、味方の選手の動きを予測して動くくらいのことしかできていませんでした。 「的確なポジショニングが取れたら試合に出られるかもしれない」 それまでなんとなくやっていた、「考えてプレーする」ことが、身につけるべき技術としてクリアになった瞬間でした。
隣にいたボランチの“お手本”遠藤保仁のすごみ
考えてプレーすることにかけては、ガンバではダブルボランチを組むことも多かったヤットを抜きに語れません。フリーキックの名手という決定的な武器を持っていますが、ヤットも玄人好みというか、わかりやすく目立つタイプではありません。恥ずかしながら、私もガンバで一緒になって感じたのは、「イナ(稲本潤一)は無理やけどヤットやったら追いつけるかも」という安易な感想でした。 ヤットに関しては、サッカーを見ている人なら誰でも「すごいのは知っているよ」と思うかもしれません。しかしヤットには、ピッチレベルで横に並んでみて初めてわかるすごさがありました。 中盤でボールを受けたものの、前線の選手が動き出しておらず、ボールを持っている私の位置からは有効なパスコースがないように見えることがあります。その場合、ボールを持ち替えたり、ドリブルしたりしながらパスコースができるのを待つのですが、ヤットはそんなとき必ず「こっち空いてるよ」と私の視界に入ってきてくれ、ボールを受け取れるポジションを取ってくれるのです。自分がボールを受け取らなくても、私には見えていないパスターゲットを、声を張り上げるでもなく、ボソッと教えてくれる。何気ないプレーですが、これが攻撃の起点になったり、縦に速く攻めるスイッチになったりするのです。 失礼な話なのですが、「教えてもらっても自分に同じことはできない、聞いてもムダ」と思っていたイナとは違い、ヤットには最初からいろいろと質問していました。特別仲がいいわけではありませんでしたが、ヤットが何を考えてプレーしているのか、どこを見ているのかにはすごく興味がありましたし、同じボランチをやるようになってからは参考にさせてもらう目的で試合中や試合の合間にいろいろ質問をしていました。 ヤットも口数多く教えてくれるタイプではないので、ヤットの言葉と実際選択したプレー、その結果から意図をくみ取って自分なりに考えることが増えました。宮崎の合宿で、練習試合をやったときに、ヤットが相手にプレッシャーをかけて私がいるほうに動きを限定してドリブルをさせるような動きをしたことがありました。私はその動きに気づくことができず、ドリブルへの対応が遅れてクロスを上げられてしまったのですが、そのプレーの後にヤットが近くに来て「ハシあそこにおったから、相手をそっちに行かせたタイミングでボール奪いに来てくれへん?」と言うのです。 ヤットは、一人でボールを奪いきるシチュエーションだけでなく、周りと連携して相手の動きを誘導して、ボールを奪うことまで考えてプレーしていたのです。