給与体系の変更で知らぬ間に“減給”されていた? 承諾のサインをしてしまった従業員が「無効」求めて提訴、裁判所の判断は
裁判所の判断
Xさんの勝訴だ。裁判所は「Xさんが自由な意思により同意したとはいえないので新たな給与体系への変更は認められない」「各種手当は基礎賃金に含まれる」旨判断し、会社に対して約37万円の支払いを命じた。 ■ 新給与体系への変更が認められるか? 会社から「これにサインしてくれないか?」と言われて、よくわからないままにサインしてしまったとしても、今回のように勝てることがある。不利益変更の際のサインについては、最高裁が以下のとおり判示しているからである。 「労働者の自由な意思に基づいているかどうかという観点からも判断されるべき」(最高裁 H28.2.19) 今回の事件では、以下の事情を考慮して裁判所は「Xさんの自由な意思により同意したとはいえない」と結論付けた。 ・新たな給与体系を見て、各種手当が基礎賃金に含まれるかどうかを認識することは難しかった(筆者注:手当が基礎賃金に含まれれば残業代がアップする) ・各種手当が基礎賃金に含まれることを前提に残業代を計算すると、新給与体系への変更は従業員にとって著しい不利益を含むものであった ・手当整理の際、労働条件通知書の控えはXさんに渡されなかったので、新給与体系への変更説明会で説明を聞いても自分の基礎賃金の範囲すら正確に把握することは難しかった …etc というわけで、これまでの給与体系に基づいて残業代が計算されることになった。 ■ 各種手当が基礎賃金に組み込まれるか? 各種手当が基礎賃金に含まれれば残業代を計算する際の単価がアップするため、従業員にとっては死活問題だ。 結論から言うと、Xさんの主張がおおむね認められた。【時間外職能給、夜勤・長距離手当、特別手当、特務手当(固定/変動)】が基礎賃金に含まれることとなった。 〈解説〉 手当が残業代といえるためには、①明確区分性(基礎賃金と手当とを明確に判別できること)、②対価性(その手当が残業代に対する対価として支払われていること)が必要だが、裁判所は「それらの要件を満たさない。よってこれらの手当は残業代とはいえないため、基礎賃金に組み込む(=残業代計算するときの単価がアップする)」と判断した。 もし【固定残業代で働かせ放題】を強いられている方がいれば、関連記事【「役職手当は残業代に該当しない」 新聞記者が会社を訴え“90万円”勝ち取る…「固定残業代」“法的アウト”の基準とは?】も参考になるだろう。
最後に
基本的にはサインしたら一巻の終わりだ。コレは押さえていただきたい。 ただ! 不利益変更の際のサインについては、今回のように勝てることがある。しかし1番の対策は、サインする【前に】弁護士や外部の労働組合などの専門家に見てもらうことに尽きる。参考になれば幸いだ。 ■ 林 孝匡(はやし たかまさ) 【ムズイ法律を、おもしろく】がモットー。情報発信が専門の弁護士です。 専門分野は労働関係。好きな言葉は替え玉無料。
林 孝匡