年4万円減税で国民負担を軽減。「消費税減税」ではダメなのか 税理士が解説
2024年度与党税制改正大綱が12月14日に公表され、納税者本人と配偶者を含む扶養家族を対象に、所得税と住民税あわせて「1人4万円の定額減税」が盛り込まれた。物価高による国民負担の軽減措置で、来年6月以降に実施される。 この定額減税は岸田首相がかねてより大枠を示しており、当時野党等からは消費税減税を求める声が上がった。 物価高は日本に限った問題ではなく、世界各国でも対策が講じられているが、実に世界108か国・地域で、消費税にあたる「付加価値税」の減税を実施しているという(実施予定含め※消費税廃止各界連絡会調べ)。 付加価値税と消費税に違いはあるのか、消費税を減税することで物価高対策になり、ひいては景気回復につながるのだろうか、柴田篤税理士に聞いた。 ●消費税と基本的な考え方は同じだが、税率などの違いがある ーー付加価値税とはどのような税金なのでしょうか。日本の消費税との違いについてもお教えください。 付加価値税(Value Added Tax=通称VAT)は、1954年にフランスで採用されました。「中立性」「簡素性」をうたい文句に、今日欧州連合(EU)各国はじめ、世界各国に拡がりました。製造から販売するまでの流れであるサプライチェーンがA→B→C→D(最終消費者)と進むとき、各段階で生じた付加価値に課税されます。 EUのVATを例に日本の消費税と比較してみましょう。基本的な考え方は同じですが、EU VATの税制はより蓄積経験があり国際的です。 (1)標準税率には下限がある EU加盟国はVATを共通税制としています。加盟国は標準税率の下限を15%とし、上限(軽減税率を除く)に対する定めはありません。2023年現在、ルクセンブルグの16%からハンガリーの27%までさまざまです。 (2)EU間のVAT税率の違いで流通弊害も EUは関税同盟ですから、EU内での取引には関税はかかりません。一方、加盟国間でのサプライチェーン取引では、各国の異なるVAT税率や軽減税率(食品・医薬品・書籍出版等)の違い・適用解釈をめぐって流通が阻害されることがあります。EUは、さまざまな簡便法制定や、欧州裁判所による司法判断により、これを除去してきました。 (3)インボイス制度を採用 EU VATがインボイス制度を採用しているのに対し、日本の消費税はこれまで帳簿方式を採用していました。2023年10月に日本の消費税もインボイス制度を導入し、EU VAT制度にならって捕捉率(課税対象とされるべき所得のうち、税務署がどの程度把握しているかを示す数値)を上げ、税収を上げようとしています。 ●事業者をとるか、消費者をとるか ーー日本の景気回復のためには、定額減税ではなく、消費税を減税という選択肢ではだめなのでしょうか? 国税庁によると、消費税は“消費一般に広く公平に負担を求める間接税”とされています。所得の高い層にも低い層にも一律の税率をかけるため、所得が低い人ほど負担割合が多くなり、逆進性の問題があります。 そこで今回の時限的な所得税・住民税減税に対して、消費税を減税した方が景気回復につながるのではないかといわれています。 コロナのとき、イギリスやドイツ等で時限的に飲食・宿泊産業等を対象にVAT税率を下げました。一定の効果はあったようですが、コロナ禍での限定的な措置でした。日本ではコロナ禍においては補助金で対応し、今回は時限的な所得税・住民税減税で対応しようとしています。 サプライチェーン(A→B→C→D)において、会社・事業者であるA・B・Cの消費税は必要経費として差し引くことができます(仕入税額控除)。これにより、サプライチェーンを効率化し、競争力を高める方向に働きます。 事業者が実質的に負担する消費税負担分は、最終消費者Dに比べて有利になります。逆にいえば、消費税を減税すると相対的に最終消費者の得る恩恵が大きくなるのです。 一方、輸出取引では「輸出免税」により事業者へ消費税が還付されます。消費税を減税した場合、輸出取引における消費税還付のメリットが損なわれ、サプライチェーンの効率化は遅れます。 政府は消費税減税よりも、時限所得税・住民税減税を採用しました。輸出を増やし、国内産業を効率化し、税収を増やし、国民に還元した方がよいと考えているのでしょう。ただし、この政策においては、税金を有効に使っていただけたら、という条件がつくと考えます。 【取材協力税理士】 柴田篤(しばた あつし)税理士 日本水産(ニッスイ)・オランダの国際税務シンクタンクIBFD・アンダーセン出身。現在欧州のVAT専門誌VAT Monitorの日本通信員。主に「会計国際税務・関税VAT移転価格・貿易・金融税務を扱う。ばんせい証券グループの持株会社ばんせいホールディングス社長兼任。 事務所名 :TradeTax国際税務会計事務所 事務所URL:https://www.japan-jil.com/
弁護士ドットコムニュース編集部