手取りか将来の安心か…「年収の壁」引き上げや撤廃で働き方変わる? FPのアドバイス
配偶者に扶養されるパート従業員らが税や社会保険料の負担を避けるため、働く時間を短く抑える「年収の壁」について、政府、与党は引き上げや撤廃の方針を打ち出している。手取りか、将来の安心か。家計のやりくりに詳しいファイナンシャルプランナーの白浜仁子さんにアドバイスをもらった。 【画像】配偶者の扶養内で働く人の年収と手取り(円) -所得税の負担が生じる「103万円の壁」が引き上げられる見通しだ。パートらの働き方は変わるか。 「よく家庭から相談を受けるが、103万円より、社会保険料が発生する106万円や130万円の方を意識している人が多い」 「会社員や公務員の夫の扶養に入る妻は、年収106万円の壁を越えなければ社会保険料を支払う必要がない。越えると妻自身が勤め先の厚生年金と健康保険に入り、保険料を負担する。この壁の影響を受けない従業員51人未満の職場で働く場合も、130万円以上になれば勤め先で社会保険に加入するか、国民年金や国民健康保険に入らなければならない」 「所得税は103万円を超えた額の5%。年収105万円なら所得税は千円で、住民税を合わせても大きな額ではない。ところが社会保険料は、例えば従業員51人以上の職場で110万円稼ぐと、16万5千円が差し引かれる。この『社会保険の壁』がある限り、働き方はあまり変わらないかもしれない」 -その106万円の壁は、厚生労働省が撤廃する方針を固めた。週に20時間以上働く人は、年収を問わず厚生年金に加入するようになる。手取りの減少を抑えようと、本人が払う保険料の一部を企業が肩代わりする案も出ている。 「保険料はパートの年収の30%程度。それを企業と本人で折半するので、例えば年収103万円の人が110万円まで働くようになると、企業負担もゼロが16万5千円になる。それがさらに上乗せされるとなると、企業の負担感は大きい」 「スーパーのレジ係で考えると、全体の売り上げが伸びなければ企業の持ち出しが増えるばかり。パートが働いた分だけ売り上げも上がる営業のような業種でないと厳しい。パートが長時間働くと助かる企業ばかりではなさそうだ」 -夫の手取りにも影響があると聞く。 「夫の会社に配偶者手当など独自の制度がある場合、妻の年収が103万円、もしくは130万円あるかないかが支給の基準になっていることが多い。月1万円前後であっても、妻は『○時間分の働きが無駄になっては』と働き控えの要因となる」 「他に、夫の配偶者特別控除が減り始め、所得税の負担が増える『150万円の壁』もある。いろんな壁があって、よく分からないまま必要以上に働き控えをしている人もいるようだ」 -年金制度への不信感もあって、社会保険加入を嫌がるパートは少なくない。どう考えたらいいのか。 「35歳から厚生年金に加入して年収110万円で30年間働いたとすると、65歳からもらう年金は年18万円ほど増えることになる。社会保険は将来のリスクに備える保険。『人生100年』のライフプランで考えると、目先の手取りを見て働き控えをするより、働きたいだけ働いて長期的にキャリアを積む方がいい。昇給もあって老後の資産形成に大きくプラスになり、生き方の選択肢が増える」 「ただ、共働きが増えてきたとはいえ、これまでは『家事や子育てを引き受け、扶養の範囲内で働くパート』が低賃金で働き、経済を底支えしてきた面がある。そうした点も勘案しながら、急激な負担増を招かないよう、全体をバランス良く見直していく必要があるだろう」 (聞き手・山田育代)
しらはま・ともこ 1971年生まれ。金融機関勤務を経て、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。「fpフェアリンク」(福岡市)代表。