あれから1年:X(旧Twitter)内部と広告主との関係
イーロン・マスク氏がTwitterを所有するようになってからおよそ2カ月が過ぎたころ、億万長者であり業界の重要人物でもある同氏はあるTwitterの主要広告主のCMOと極めて重要な会談を行った。この広告主はマスク氏によるTwitterの買収直後から広告を停止していたため、同氏としてはじっくりと解決策を話し合いたいと考えていたのだ。 マスク氏は熱心に耳を傾け、自身の投稿を含めたTwitter上の有害コンテンツに関するマーケター側の懸念を注意深く汲み取ろうとした。だがマーケターが話し終えて一息ついたところで、マスク氏はまるでTwitterと広告主のあいだに流れていた不協和音を象徴するかのごとき言葉を口にした。 同氏はそのマーケターに、Twitterからすべての広告を引きあげればいいではないか、そうすればTwitterが他のいかなる広告チャネルよりも効果的であるということが証明されるだろう、と提案したのだ。当然ながら、マーケターはきっぱりと断ったが、マスク氏にはその理由を推し量ることはできなかった。 騒動の末にマスク氏がTwitterの所有者におさまってから1年が経過した現在でもなお、このエピソードは、Twitterを利用する上でマーケターたちが直面する難しさを鮮やかに物語っている。現在はXという名称になったこのプラットフォームに対する考え方について、マーケターとマスク氏の認識はいまだに一致していない。この点は以前とまったく変わりはない──劇的な買収の後でマスク氏が当時のインフルエンス・カウンシル(上位広告主から選抜された企業で構成)と最初の(そして最後の)会談を行ったときでさえ、すでにそうだった。 この会談は、マスク氏がTwitterの経営権を握った数日後の、2022年11月3日に行われた。マーケティングコンサルティング会社AJLアドバイザリー(AJL Advisory)の創設者でCEOのルー・パスカリス氏は長年カウンシルのメンバーを務めていたが、同氏によればカウンシルのミーティングには通常40名弱の参加者がおり、新型コロナウイルスのパンデミック以前は年に3~4回、直接顔を合わせて開催されていたという。だがこの11月3日午前10時(東部標準時)に行われたZoomによるバーチャル会談は、当初カリフォルニア州ヒールスバーグで数日間にわたって行われる予定であったカウンシルとの対面でのオフサイト会議が延期になったため、直前になって代替的に実施されたものであった。この会談のホスト役は収益担当ヘッドに着任したロビン・ウィーラー氏が務め、マスク氏も同席した。 マスク氏は、「買収をめぐって混乱はあったけれども、自分はTwitterの将来のかじ取りをするにふさわしい人物であると納得してもらえるように、広告主に説明すべきだ」と、自身のチームから説得されていたのだった。このバーチャル会談に参加していた何人かによれば、やや表面的だったものの、効果はあったと思われる。マスク氏は期待されたとおりの話をし、約束をした。コンテンツモデレーション評議会に諮ることなくTwitterに変更が行われることはないと強調し、ブランドセーフティへのコミットメントを強く主張した。広告主たちはこれを聞いて満足した。 そしてマスク氏によるツイートの話題になった。誰かが彼に、自身の投稿はブランドにとって安全だと思うかと尋ねた。対するマスク氏の返答はさらりとしたものだった。「私や私が個人的なアカウントでやっていることと、Twitterのブランドや会社とは、切り離して考えてもらいたい」。これが、マスターカード(Mastercard)、クラウドファンディングのゴーファンドミー(GoFundMe)、マイクロソフト(Microsoft)のCMOを含む118人の広告主に向けた同氏のメッセージだった。沈黙が続いた。このような姿勢が広告主幹部たちに通用しないことは明白だった。出席者のひとりが明らかにしたところによると、あるマーケターが口を開いてこう述べたという。「イーロン、それはできない。私たちには上司がいて、自分の行動を擁護する必要がある。企業とそのCEOが別々のトークトラックを持つなどという状況は、誰ひとり目にしたことがない」。 その会談の後、インフルエンス・カウンシルは永久に廃止された。そして、マスク氏が広告主の求めるものを把握していないという事実を鮮明に浮かび上がらせた例は、これだけにはとどまらなかった。