”バブル期のティラミス”のような爆発的ブームが起こったら「日本復活したな」と思ってもいい。【エリックサウス・稲田俊輔さん】
原理主義に突っ走るお店も単純に大好きだけど、ローカライズとのせめぎ合いを上手いことスタイルに昇華させているお店にグッと来ます
今回執筆していて一番面白かった、筆が乗った「異国の味」は? 稲田:スペイン料理が日本で市民権を得ていく過程には起承転結があって、書いてて楽しかったですね。小洒落た居酒屋がどこもかしこも「◯◯バル」と名乗り、日本中に「◯◯バル」が大量発生した現象についてはものすごく複雑な思いを抱いていますが、実は自分も当事者として「◯◯バル」と銘打った店をやっていたこともあります(笑)。「エリックサウス」も1号店にしれっと「◯◯バル」って書いてありましたし、その後こっそり消しましたけどね(笑)。でも「◯◯バル」増殖のおかげで昔から真面目にやっている、ガチのスペイン料理店もちゃんと繁盛しているので、今のところハッピーエンドかな。 一方で開店当初は現地の味に忠実なメニューを提案していたお店が、お客さんのニーズとのせめぎ合いでどんどんローカライズされ無難なメニューに落ち着いてゆく……といった切ないケースも記していました。稲田さん自身は「外国料理はアレンジ一切なしに本場そのままで提供してほしい」という価値観を持つ「原理主義者」とのことですが、外国料理が日本進出する際の障壁は何ですか? 稲田:原理主義とローカライズのせめぎ合いは避けて通れない問題だと思います。多分、どこのお店もどうローカライズしたら日本のお客さんに受けるのか、わかっているんですよ。具体的にはスパイスやハーブの香り、それと油脂を抑えて、旨みと甘みをブーストすれば、それだけで日本人の口に合う料理になる。ものすごく単純なロジックです。でもどのさじ加減でやるのが正解なのか、誰にもわからない。やり過ぎると松屋のシュクメルリ鍋定食(編集注:ジョージアの郷土料理シュクメルリをベースにしたメニュー、松屋の復刻メニュー総選挙で1位を獲得したものの原理主義者には不評)になっちゃうし、やらないままだとなかなかお客さんに受け入れられない。どこかに正解があるはずなんですけど、さじ加減は感覚的なものでしかないので。