マジメな警察官がじつは借金250万円、仕事も妻子も失い「さらなる転落」へ…「ギャンブル依存者」に共通する、ある“思考回路”
再び、消費者金融へ
あっという間に、パチンコ店に出向く意味が変わり、足を運ぶ頻度も増えていく。最初は非番の日に限っていたが、仕事帰りにはパチスロ台の「リーチ目を見たい」との欲求にあらがえず、しばしば店に立ち寄るようになっていった。そこに突っ込む金額も、日に日に大きくなり、妻から受け取る月数万円の小遣いなど、すぐに底をつく。自分にギャンブルと借金の「前歴」があることは忘れていない。それはいつだって、ある種の後悔、黒い歴史として心のなかでうごめいていた。 再び自分が同じ過ちに向かって 転がっているなどと、職場である警察にはもちろん、家族にも絶対に秘密にしなければならない。世間的には、「マジメな夫」「仕事熱心な警察官」を貫き通す。頭ではわかってい るつもりだった。だが、表層を取り繕ってごまかしていること自体が、「自分はわかっていない」という現実には気づかずにいた。 スロットのスピンを止める指先の感触、大当たりでジャラジャラとコインが出てくる景気のいい音が、家族の生活を支える大黒柱として、そして街の治安を背負う公務員として、ずっと培ってきた理性を麻痺させ始めていた。 ある給料前の休日。財布のなかには十分な資金がなかった。それでも、脳内では3つ並んだ「7」が手招きしてくる。それを振り払うことができずに、とうとう一線を越え、消費者金融で5万円を調達した。足早に出向いたパチンコ店では、かなりの幸運に恵まれた。たまたま座った台が当たりだったらしく、たいした時間もかからずに15万円ほど勝つことができた。 5万円を消費者金融に返しに行けば、手元には10万円が残る。妻子持ちの公務員にとっては、なかなかの大金だ。ここで目を覚まし、危うくなっている自分自身の理性を立て直すチャンスでもある。ところが、そうではなかった。 「こんなに勝てるじゃないか。5万円の返済は後回しにして、15万円を元手にもっと増やそう」 ギャンブル依存者に共通する思考形態だ。ぎりぎりのところで踏みとどまっていた(かに思えた)ケイが、本当のギャンブル依存へと踏み込んでしまったのは、この瞬間だったのかもしれない。 結果的に、ケイにとってこのときの「大勝ち」は幸運なんかではなく、不幸を引き当てる「リーチ目」だった。