「豚とユダヤ人」の3000年にわたる摩訶不思議な禁断の関係
豚肉を食べないユダヤ人だが、豚とは切っても切れない関係にあるらしい。その3000年におよぶ歴史をたどった新著を、米ユダヤ系メディア「フォワード」が“美味しいとこどり”する。 【画像】ユダヤ人が雌豚と戯れる15世紀末ドイツの風刺画 豚肉がコーシャ(ユダヤ教の食規定で認められた食物)でないことは、誰もが知っている。ではなぜ、ユダヤ人はそんなに豚に執着しているのか。 ユダヤ人のほぼ全歴史を通じて、豚は回避できないものだった。古代ローマ時代、支配者たちはユダヤ人に豚肉を食べろとけしかけて、帝国への忠誠を試した。 何世紀にもわたり、反ユダヤ的な彫刻や絵画、装身具には、雌豚の乳を吸ったり、豚に乗ったりするユダヤ人が描かれてきた。ユダヤ人が豚として描かれてきたことさえある。 ユダヤ人も、ときにはこの関連づけを受け入れてきた。そのなかでおそらく最も有名なのが、署名に豚の絵をよく描いた、ノーベル賞作家のアイザック・バシェヴィス・シンガー(1904-1991)だろう。 だが、豚だけが非コーシャの動物というわけではない。兎はコーシャではないし、蛙や貝、海老や馬もコーシャではない。ではどうして豚が、ユダヤ人であること、あるいはないことを規定するようになったのか。
ユダヤ人と豚、その3000年の歴史
その問いを中心に扱うのが、米ウィスコンシン大学マディソン校の宗教学教授ジョーダン・D・ローゼンブラムによる新著『禁断──ユダヤ人と豚、その3000年の歴史』(未邦訳)だ。 その問いに答えるべく、ローゼンブラムは古代史から始め、ラビ(ユダヤ教の律法学者)の著作で、いつ豚が非コーシャの食物すべての代表となったかをたどる。 さらには、過酷な状況でなら豚を食べることは許されるか否かをめぐる、タルムード(ユダヤ教の宗教的典範)の議論を分析する。ちなみに、その答えは然りだ。われわれは法によって生きるのであり、法によって死ぬのではないとラビたちは言う。 だが非常に興味深いのは、豚がトレフ(イディッシュ語で非コーシャの意)と同義になって以降の話だ。まさにそうして豚を拒絶したことで、ユダヤ人と豚は歴史を通じて結び合わされてきたのだ。 たとえば、キリスト教徒は何世紀にもわたり、豚に否定的な連想をしてきた。そもそも、イエスはおもに他のユダヤ人たちに説教したユダヤ人であり、キリスト教徒はユダヤ教信仰の多くを継承したわけだ。 一方で、ユダヤ人はキリスト教に改宗しないので、すでに見下されていた。それでどういうわけか、ある段階で、豚とユダヤ人が同一のものになった。ローゼンブラムはこう書いている。 「豚が文字どおりの獣から悪徳や罪逃れ、そして重要なことに異端を体現した寓喩(ぐうゆ)へと変容するにつれ、豚とユダヤ人、悪いキリスト教徒のカテゴリーは融合していった」 同書が引用する、ある聖書外典(聖書に収録されていない書)の物語では、イエスがユダヤ人たちを豚に変えてしまったりする。それは、ユダヤ人が豚肉を食べない理由の中世的な説明なのだ。要するに、共食いになるからだと──。 こうしてキリスト教徒は何世紀にもわたり、豚と戯れるユダヤ人の描写を重ねていくことになった。ドイツではありふれた反ユダヤ的な戯画は、ホロコーストに至るまでもその最中も、「ユーデンザウ」(「ユダヤの雌豚」の意味)という名前が独自にあったほどだ。ローゼンブラムは次のように書く。 「キリスト教徒が豚を用いてユダヤ人のアイデンティティについて話せば話すほど、豚がキリスト教徒のアイデンティティを規定し、形成する結果になった」
Mira Fox