老いた自分と対面「老化アプリ」想定外の利用価値 「未来の自分」を知ると人生が充実する不思議
「未来の自分」を可視化することで、人は自分自身をよい方向に変えられる。その内容も貯蓄から道徳的な行動、健康的な生活まで多岐にわたる。 未来の自分との対面は、小さな子どもにも影響を与えるようだ。就学前の子どもに未来の自分自身(といっても1日後だが)についてのイメージを思い描いてもらい、それについて説明させたところ、計画性が高まったという結果が出ている。 具体的には1泊の旅行に持参する持ち物について、適切な判断ができるようになったという。1泊旅行の計画は、豊かな老後生活への計画に比べれば単純なものだが、3歳や4歳の子どもの相手をした人ならおわかりのとおり、幼い子どもたちが将来の計画を立てるのは、大変なことだ。
こうした結果を受けて、大手企業も動き出した。メリルリンチは「フェイス・リタイアメント(Face Retirement)」というウェブサイトをつくった。 ユーザーが自身の顔写真をアップロードすると、60年後の老いた自分の顔写真が、そのころのガソリンの想定価格とともに表示される(そのころも化石燃料自動車を利用している可能性があるため)。同社は未来の自分について想像させることで、年金用の口座開設や掛金拠出のきっかけになると期待している。
だからといって画像は万能ではない。重要なのは老け顔の写真ではなく、その背景だ。 たとえば顔写真を変換するアプリ「FaceApp」は2019年の夏ごろから話題を呼び、インフルエンサー、さらには世界中のSNSユーザーが自分の顔写真を加工した結果、SNSが「老け顔」の投稿であふれた。自分の写真が瞬時に老人に変換されるため、同アプリは大きなトレンドになった。 ■自分を変えるにも、人はラクな道を選ぶ だからといってそうした人々が、年金口座の掛け金を増やしたり、ドーナツをやめてサラダを食べたりするようになったのだろうか。
おそらくそんなことはないだろう。社会心理学者は「水はもっとも単純な経路を流れる」ということわざを好んで使うが、単純な道を好むのは人間も同様で、人は歩きやすい道を選ぶものだ。 自分の好ましくない行動(衝動買いをする、長期的な貯蓄ができない)を変えたいのなら、軌道修正のためのプロセスは簡単でなければならない。しかし老け顔アプリの画像は貯蓄のためのアプリや食事管理のプログラムなど、手軽に利用できるツールと連動していないので、行動を変えるのは難しい。