監督も「そこまで実力ないと思っていましたから…」高校時代は超無名→大学で159キロ右腕に…“ドラフト1位候補”愛知工大・中村優斗は何がスゴい?
ドラフト候補として「見られている意識」もある?
あれからおよそ10カ月――ドラフト1位候補と報道され、マウンドでは以前とはちょっと異なる「視線」にさらされて、この日も4球団のスカウトに、テレビ取材が2社。 ちょっと前まではほとんどなかったはずの「見られている意識」が、わずかずつでも中村優斗投手のピッチングを崩しているのか。 「見に来ている人のために『150キロ投げなくちゃ』みたいな意識ですか。もしかしたらあるかもしれないですね、無意識のうちに。前は確かに、下半身の体重移動と連動に上半身が引っ張られているというか、腕が勝手に振られているというか、自然と腕が振られてスピードが出ていた。そんなイメージ、ありましたね。確かに」 良い状態の時のメカニズムを、ちゃんと説明できる。 この日の試合、ネット裏のバッテリーの延長線上の位置から見ていたので、1球1球の「○」と「✕」がわかるようだった。 「両肩のラインがさあ、このままこうやって、まっすぐ打者に向いて……」と動作をしながらここまで言ったら、その先は中村投手が引き継いでくれた。 「そう、そうなんですよね! 体の開きをギリギリまで我慢して、左肩から打者に向かっていっている時は、しっかり指にかかった納得のまっすぐが投げられるんです」 中村君、わかっているんだ。ならば、修正できる。 「でも、今日はそういうボールが少なかった」 体の開きをギリギリまで我慢した良い投げ方というのは、疲れる投げ方であり、体の強さがないと出来ない投げ方だ。言い換えれば、体調万全でないとなかなか出来ないフォームともいえる。 「リーグ戦までに、いかに体を休ませるかですね。良い意味で」 客観的に自分を見つめる感覚を持っている。言葉だけの威勢の良さより、こうしたフラットでクールな感性のほうが「投手」として頼もしくはないか。
スカウトが「プロでも決め球になる」変化球とは?
「実は中村みたいなピッチャーがいちばん決断しにくいんです」 1年時から愛知工業大・中村優斗を追いかけてきたあるスカウトが困っていた。 「高校時代の彼がまったく見えない。当時のことを知っている人(スカウト)もいないし、私自身も知らない。だけど、大学の3年半でとんでもないピッチャーになっている。まっすぐの強さだったら、高校・社会人含めてNo.1じゃないですか。突然、天から降臨してきたようなピッチャーってことですよ。彼、スピードのことばかり話題になりますが、変化球もいいんですよ。特にフォーク。プロでも決め球になります」 そう、変化球だ。本人に訊いていた。 「いちばん頼りにしている変化球ですか? フォークですね」 即答だった。 「1つ前のまっすぐと同じピッチトンネル(軌道)から落とせば、高い確率で空振りが奪える。試合によっては、まっすぐより頼りになるヤツです」 そのフォークが140キロ前後のスピードが出て、カットボールもその球速帯に近く、スライダーが130キロ近辺。これに、今日は抜けがちだったカーブが110キロ台だから、その球道がタテに安定してくれば……。 長崎では何も起こらなかったのに、名古屋に転じてからの中村優斗投手の「野球」には、劇的な変化が起こった。彼の努力もひとかたならぬものだったのだろうが、名古屋という土地に野球の「運気」があったことも、事実なのではないか。ならば、「中日ドラゴンズ」という将来が運命のような気もする。 右の先発タイプが少ない中で、今季は頼みの柳裕也まで調子が上がらないままに終わった。左腕・小笠原慎之介のメジャー移籍もささやかれている。育ち、育ててもらった名古屋という土地に、今度はその剛腕で「恩返し」する時がやってきたのかもしれない。
(「マスクの窓から野球を見れば」安倍昌彦 = 文)
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