金子大地インタビュー 「好き」で繋がっている2人を目撃する映画『ナミビアの砂漠』
河合優実のアドリブ
――山中監督の作品は『あみこ』(2017)を観て、『魚座どうし』(2020)では舞台挨拶の司会をしたので、「何て興味深くて面白い監督なんだろう」とその時に思ったんです。視点が独特で、演出に関しても言葉で説明している感じではないような。実際に山中監督とご一緒して、山中監督だからこそ、こういう作品が作れると思う部分はなんですか。 1つは「正解を作らない」です。「いいよね」って絶対に言わないんです。そこは徹底していると思います。皆から「面白いものが出来ている」というムードは出来ているのですが、そこから1歩引いて「本当にあれは良かったのか?」みたいな感じで監督はやっていますし、自分の感性、センスを信じきっていない部分があると思います。だからこそ、人の意見を聞いたり、役者がやろうとしたことに目を向けたり、ちょっと委ねることをする監督だと思いました。だから作品に余白が生まれて、いいものになるのではないかという気がしています。 ――そうなんですね。さっきお話に出た、【ハヤシ】が【カナ】に問い詰められるシーンで、【ハヤシ】が目の前のカップラーメンを退かす仕草は、金子さんのアドリブだったと舞台挨拶で言っていましたが、それ以外にアドリブが活かされたシーンはありますか。 色々あるんですが、河合さんは本番で何をするか、分からないんです。だから本番でいきなり怒ることが多くて、例えば煙草を【カナ】が吸って、その後【ハヤシ】にそれを吸わせようと差し出すシーンありますよね。【カナ】が煙草をフーッて、やってからの一連の芝居は河合さんのアドリブだったんです。 ――あれ、なんだかちょっとドキドキというか緊張感がありましたね。ト書きには書いてなかったんですね。 はい、アドリブは何個かあります。【カナ】にご飯を食べさせているところとか色々と。 ――そう考えるとやっぱり、河合さんの演技も面白いですよね。 滅茶苦茶、面白いです。でも、たぶん普段の河合さんはフラットでいようとしているんだと思います。だからこそ、人に共感を与えるお芝居が出来るんだと思います。そこまで滅茶苦茶、変わっているというタイプでもないし、一番、人と近いところ(人の気持ちや日常の仕草)を常に考えている人だと思うから、【カナ】を演じることが出来るんだと思います。河合さんって掴めないんですよね。本番で自分が何をやっても絶対に返ってくるし、僕は河合さんをすごく信頼していたので、伸び伸びと芝居をすることが出来ました(笑)。きっと、河合さんの育ちの良さが芝居にも出ているのだと思います! ――河合さんは、「自然と普段から人を見ているかも」と言っていましたよね。では金子さんが役者を続ける上で大事にしていることはなんですか。 僕もフラットでいたいと思っています。やはり役者という仕事をしているとちょっと常識とは違う環境というか、芸能界というところが基準になってしまいがちです。だからあえて、生活水準を上げ過ぎないこと、常識を持つこと、普通の人間でいることを意識しています。僕の出演作品を観てくれる人は、色々なお仕事をされている人たちが大多数なので、人の心に届く為には、そういう部分を大切にしないといけないと思っています。