NO! 路上飲酒 環境悪化、渋谷で禁止
国全体で考えていくべき問題
渋谷区の路上飲酒禁酒条例は、違反者に罰則や罰金を科すことはできない。飲みかけのアルコール飲料も強制的に没収できず、あくまで自発的に差し出してもらうしかない。このため、条例の効果を危惧する声が早くも出ている。 渋谷区が路上飲酒を厳しく取り締まると、他の地区の繁華街に人が流れ、路上飲酒の問題が新たに発生するのではないかという懸念もある。渋谷区が昨年、ハロウィーンの日にはJR渋谷駅周辺に来ないよう交流サイト(SNS)などで呼び掛けたところ、一部の人々が新宿区の歌舞伎町に流れ、大規模な路上飲酒騒ぎが発生した。これを受けて新宿区は今年、10月31日午後5時から翌朝午前5時までの期間限定で、歌舞伎町近辺での路上飲酒を制限する条例を急きょ制定した。 渋谷区の長谷部健区長と新宿区の吉住健一区長は10月7日、外国人旅行者に条例の周知徹底を図ろうと、日本外国特派員協会で記者会見を開いた。長谷部区長は、条例の施行後も路上飲酒問題で改善がなければ「多くの国同様、厳しく対応する必要がある」と述べ、追加の措置の可能性に言及。その場合は「新宿区と渋谷区が共同で、国や東京都に対し罰則・罰金付きの法律を制定するよう求めていくことも考えている」と述べた。 多くの訪日外国人(インバウンド)を迎えれば経済的には潤うものの、習慣や考え方の違いからさまざまな摩擦や問題が生まれやすい。観光立国を目指す日本にとって、渋谷区が直面する問題は一地域だけのことではない。国全体で考え、対応していかなければならない課題なのである。
【Profile】
猪瀬 聖 フリージャーナリスト。米コロンビア大学大学院(ジャーナリズム・スクール)修士課程修了。日本経済新聞社東京編集局生活情報部、同ロサンゼルス支局長などを経てフリーランスに。主に農業、環境、マイノリティー、米国社会、ワインをテーマに取材、執筆活動を続けている。著書に『アメリカ人はなぜ肥るのか』(日経プレミアシリーズ)、『仕事のできる人はなぜワインにはまるのか』(幻冬舎新書)など。