経営者、指導者、営業…三者三様のセカンドキャリア 徐々に去りゆく北京五輪世代【コラム】
ブラジルW杯で号泣した青山「打ちのめされた」「自分の実力のなさ」
「打ちのめされたので、何とも言えないですけど、結果がすべてなので。涙の理由は自分の実力のなさ。僕はW杯に行くのを目標にしていたけど、勝つことが目標ではなかった。その差はすごく大きいなと。そこは後悔ですね」と、失望感を露わにしていた。 広島のワンクラブマンだった青山は細貝のような同世代が持つ海外リーグ実績もなければ、世界大会に出た経験もなかった。29歳にして世界との差を突きつけられるとは思ってもみなかっただろう。 ただ、逆に言えば、そのショッキングな出来事があったから、貪欲に高みを追い求め続けることができたのではないか。2015年にJリーグMVPに輝き、森保一監督率いる日本代表が発足した2018年秋から2019年1月のアジアカップ(UAE)に至るまで代表キャプテンを任されたのも、飽くなき向上心を抱き続けたから。その真摯な姿勢は誰もが認めるところだ。 ミヒャエル・スキッベ監督体制になった2022年以降は出場機会が減少し、本人も苦悩の連続だったに違いないが、絶対に手を抜くことはなかった。「常に120%のアオさんがいるから自分も全力でやらないといけない」。同じように試合に出られず苦しんでいた野津田岳人(パトゥム・ユナイテッド)もしみじみ語っていたほどである。 「アオさんにシャーレを掲げさせたい」という広島の今季ラストの結束力も凄まじかった。それは叶うことはなかったが、本人はお世話になった記者1人1人に頭を下げて「これからはコーチとして勝てるチームを作っていく」と決意を語った。引退直後にトップコーチというのは広島では異例。スキッベ監督のノウハウを学びながら、いつかは森保監督のような成功を収めてほしいものだ。
原口が語る興梠は「あんなに見る人のことを楽しませられる選手はいない」
そして、もう1人が興梠慎三。ご存知のとおり、J1通算167ゴールという大久保嘉人に次ぐ2位の得点記録を残した偉大な点取り屋だ。 「もう“特殊枠”ですよね。興梠慎三という。あんなにうまいFWはサコ(大迫勇也=神戸)君か慎三君しか知らない。それはいまだに健在だし、あんなに見る人のことを楽しませられる選手はいない。一言でいうと『魅力的な男』。ある意味、遠藤保仁さんや中村憲剛さん(川崎FRO)みたいに、スーパーヒーローかなと感じます」。原口元気(浦和)もこう話していたように、数字以上に印象に残る男というのは紛れもない事実と言っていい。 代表に目を向けると、2008年10月のUAE戦でデビュー。岡田武史(FC今治会長)、ザック、ハリルホジッチと3人の指揮官に呼ばれたが、同い年の岡崎がいたこともあって、16試合出場にとどまった。それでも、リオ五輪に参戦。初めて命がけで戦い、心身両面をすり減らし、一時は燃え尽き症候群のような状態に陥った。ただ、その経験がそれまでになかった闘志に火をつけたのは間違いない。 興梠を擁する浦和が2016年のルヴァンカップ、2017年のACL(AFCチャンピオンズリーグ)、2018年と2021年の天皇杯、そして2022-23年のACLと、数多くのタイトルを手にしたのも、この男がいてこそだった。 北京世代の代表格と言える上記3人に共通するのは、自分が正しいと思う道を突き進み、結果を出してきたこと。もちろん挫折や失敗は数多くあったが、それにめげることなく、さまざまな環境に適応し、突き抜けた存在感を示してきたのだ。 本田や長友、岡崎もそうだが、昭和生まれ最後の世代は揃いも揃って負けず嫌いで、オリジナリティーやアイデンティティーへのこだわりが非常に強かった。発言もストレートで物怖じしなかった。そのキャラクターも含め、魅力的な世代だったのは確か。そういう選手たちが1人、また1人と去っていくのは残念でしかないが、細貝は社長、青山は指導者、興梠は営業と違った形でサッカー界を盛り上げていってくれるはず。まずはお疲れ様という言葉を贈りたい。 残された現役は長友、香川、西川周作(浦和)、家長昭博(川崎フロンターレ)など一握りだが、個性的な面々には少しでも長く現役を続けてほしい。2025年もベテランの意地を示してほしいものである。 [著者プロフィール] 元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。
元川悦子 / Etsuko Motokawa