公明、三つを失い再出発 前途多難の斉藤体制【解説委員室から】
衆院選で敗北した公明党は9日、辞任した石井啓一代表(66)の後任に斉藤鉄夫国交相(72)を選出した。「政治とカネ」が最大争点の状況下、自民党ですら公認しなかった裏金議員を、選挙協力を優先して推薦したことが敗因の一つだろう。期待した票を得るどころか、「看板」「議席」「新たな顔」の三つを同時に失った。選挙結果を総括し、斉藤新体制の前途を占う(時事通信解説委員長・高橋正光)。 【リスト】自民党の「裏金議員」と衆院選の当落結果(選挙区別一覧)
非公認推薦で「同じ穴のムジナ」
東京地検特捜部が昨年12月、政治資金規正法違反容疑で自民党安倍、二階両派の事務所などを家宅捜索して以降、連立を組む公明党が最も警戒してきたのが2009年衆院選の再現だ。この選挙では、多くの有権者が政権交代による「政治の刷新」を期待したことで、自民党ともに公明党も逆風にさらされた。その結果、8小選挙区で全敗(当時の太田昭宏代表、北側一雄幹事長も落選)するなど公示前から10議席減(21議席)の惨敗を喫し、野党に転落した。 「同じ穴のムジナと見られたくない」。山口那津男代表(当時)が昨年末、自民党を突き放す発言をしたのは、09年衆院選が念頭にあったから。公明党が今年1月、他党に先駆けて「政治改革ビジョン」を発表し、政治改革の主導をアピール。自民党との協議で半ば強引に、政治資金パーティー券購入者の公開基準の「10万円超」への引き下げや、政治資金を監督する第三者機関の設置などを受け入れさせたのは、有権者から「同じ穴のムジナ」に見られないために他ならない。 山口氏は9月の党大会で、15年間務めた代表を退任し、石井氏に後を託した。石井氏は就任のあいさつで「清潔な政治」の実現が結党当初からの党の旗印であることを強調、「政治改革の先頭に立つ」と決意を述べた。
理念より実利優先
ところが、石破茂首相が衆院を解散するや、公明党は、裏金問題を理由に自民党の公認を得られず、無所属で出馬の三ツ林裕巳(埼玉13区)、西村康稔(兵庫9区)両氏の推薦を決めた。その二日前に石井氏は、非公認の裏金議員への推薦を明確に否定したばかり。公明党の豹変(ひょうへん)ぶりに、野党各党は直ちに「同じ穴のムジナ」(野田佳彦立憲民主党代表)などとやゆした。 同時に政界では、その理由について「選挙協力で得られる票を優先した」と広く受け止められた。というのも、石井氏が出馬する埼玉14区の一部は、小選挙区の「10増10減」に伴い区割りが変更されるまでは三ツ林氏の地盤。兵庫県内の二つの選挙区には公明党の現職がおり、西村氏は県連会長として、国政選挙で県内の選挙協力を取り仕切った経験がある。 両氏に対する推薦は、票のバーターにより、埼玉、兵庫両県の3選挙区での勝利を優先した結果であることは、容易に想像がつく。 また、公認された一部の裏金議員への推薦は、支援の見返りに比例票の獲得を期待してのことだろう。実際、比例との重複立候補が認められなかった候補者の多くは街頭で「比例は公明に」と訴えた。 そもそも、自民党が公認した裏金議員の大多数は、衆院政治倫理審査会が5月、自公も賛成して全会一致で審査を議決した対象者。しかし、対象者の誰一人として政倫審に出席しておらず、国会で説明責任を果たしていない。 連立の安定を理由に、公認された裏金議員の一部を推薦しただけでも、「清潔な政治」を実践してきた党の「看板」がかすみかねない。ましてや、非公認に推薦を出すに至っては、対外的に説明がつくはずがない。多くの有権者は、公明党も「同じ穴のムジナ」と認識したことだろう。 選挙戦の終盤、自民党は無所属候補の政党支部に「党勢拡大」を名目に、公認候補と同額の2000万円を支給していたことが判明。公明党が推薦していることが、改めてクローズアップされ、追い打ちとなった。