だが、この対策は時限措置であり、一部の人について国が保険料を肩代わりすることは公平性を欠くといった批判もあるため、7年に予定される次期年金制度改正での課題となっている。

大阪府豊中市のパートの40代女性は、年収の壁の引き上げを求めるが、「フルタイムで壁を越えて働く人は、保険料を払わなくてもいい人が増えることに不満を持つかもしれない」と懸念。その上で「物価高などの社会情勢に合わせて公平感のある制度に変えてほしい」と訴える。

各政党は衆院選の公約で「年収の壁」問題の改善を主張する。自民党は壁を見直し、働き方に関わらない中立な社会保険制度を実現するとした。自民と連立政権を組む公明党も同様に壁の解消を訴える。立憲民主党は公約に「『130万円の壁』等を給付で埋める『就労支援給付制度』を導入」と明記。日本維新の会は壁の撤廃に向け、第3号被保険者制度の廃止などを検討事項に掲げる。共産党は人手不足分野の対策を策定するとした。国民民主党は壁を見直すとし、正社員を増やした中小企業の社会保険料補助を打ち出す。

◆日本総合研究所の西沢和彦調査部理事

政府の「年収の壁」支援強化パッケージは、年収が壁を越えることによる可処分所得の落ち込みを雇用保険料を原資に埋めるという奇策だ。岸田文雄前首相は次期年金制度改正で改めるとしたが議論は進んでいない。

そもそも年金制度で壁が発生するのは、昭和61年の年金改正に原因がある。改正前、一定収入以下の専業主婦（主夫）は、任意で国民年金保険料を支払い、国民年金を受け取っており、負担と受益が釣り合っていた。

改正後、そうした主婦は「第3号被保険者」と位置付けられ、夫が厚生年金保険あるいは共済組合の被保険者であれば、保険料を負担しなくても国民年金から名を改めた基礎年金を受け取ることができるようになった。妻を夫の庇護（ひご）の対象であるかのように扱うことも時代錯誤だ。

61年の改正は今となっては失敗だったことは明らかであり、壁を完全になくすためには、基礎年金を全額税方式にするなど、根本的に制度を改める必要がある。（聞き手　井上浩平）