世界最大の湿原パンタナールで〝鉄人レース〟気温45度・湿度85%の地で獰猛な蚊の来襲…とてつもないサバイバルに感心
そういえばこのドキュメンタリーにはとくに記憶に残るBGMがなかった。安易に音楽には逃げない、といういさぎよさだろうか。
こういう過酷な旅では何か食うことが活力のもとだが、彼らはアルファ米を袋からじかに食っている程度で気の毒だった。もう少しなんとかしたらいいんじゃないか、と画面のそとでイライラして見ているだけでも疲れるのだった。
夜、山のジャングルのなかでルートを見失う。さらにチームのリーダーともはぐれる。もっとも緊迫する場面だ。サスペンスとしては出来すぎの顛末だった。探検、冒険行としてはいちばんやってはいけない夜中の強行軍だが、そこでも突破してしまうのだった。そんなタフな人々にはつくづく感心した。
外国隊のエピソードだったが、足を怪我して挫折を余儀なくされるケースが紹介された。その隊員の複雑そうな顔が印象的だった。
このすさまじい鉄人レースは、このあと、別の土地では八百キロのスケールでおこなわれたそうだ。いまも世界各地の大自然のなかで続いていて、今年の世界選手権は今月末に南米エクアドルである。日本のチームも引き続き出場すると聞いた。
■椎名誠(しいな・まこと) 1944年東京都生まれ。作家。著書多数。最新刊は、『思えばたくさん呑んできた』(草思社)、『続 失踪願望。 さらば友よ編』(集英社)、『サヨナラどーだ!の雑魚釣り隊』(小学館)、『机の上の動物園』(産業編集センター)、『おなかがすいたハラペコだ。④月夜にはねるフライパン』(新日本出版社)。公式インターネットミュージアム「椎名誠 旅する文学館」は https://www.shiina-tabi-bungakukan.com