京都の伝統を総結集! 今こそ「一生着られる振袖」を届けたい理由
文化と経済活動を両立させ、新たな価値を生み出そうとする「カルチャープレナー」。昨年に開かれた第1回目の本誌カルチャープレナーアワード受賞者で、使わ「れなくなった」生地や技術を活用するブランド「renacnatta」を運営するDodici代表取締役の大河内愛加が新しい挑戦をしている。 これまでは各地の着物地のデッドストックやイタリアのシルクを掛け合わせた巻きスカートや丹後ちりめんのマーメードスカートなど、現代の生活スタイルに合うアパレルを中心に展開してきたが、今夏に発表したのは日本の伝統技法をふんだんに生かした「一生着られる振袖」だ。 デザインは、空のうつろいを表現した「暁の空」と「黄昏の空」の2種。振袖として着た後は、訪問着にも仕立て直しやすいようにした。染色や手描き友禅、金彩など京都の伝統技術を駆使して、流行にとらわれない艶やかな印象に仕上がっている。振袖は80万円、帯は20万円(税抜で、セットの場合90万円)という同ブランド史上最も高価格帯の挑戦でもある。 近年の成人式では、レンタル市場やインクジェット技術が発展するなかで、なぜ今「振袖」なのか。カルチャープレナー受賞から1年、どんな心境の変化があったか聞いた。 ──カルチャープレナーに選出されて1年。どんな変化がありましたか? カルチャープレナーに選出された時は、とても光栄に思ったと同時に、やってきたことは間違っていなかったんだと背中を押してもらったような気持ちになりました。授賞式のスピーチで「伝統工芸やものづくりの世界でしっかり経済効果を見出せるブランドにしたい」と宣言したので、売れなくては意味がないということも改めて意識した1年でした。伝統に携わる人たちにお金が回ることこそが大切。特に私たちが関わっている産業は遠くない未来を見据えたときに「需要の減少」「高齢化」「後継者不足」「価格圧力」などシビアな問題に直面しているところが多くあります。ゆえに私たちの役目は「伝統産業にお金を生み出すこと」だとあらためて自負し、身の引き締まった1年でした。 とはいえ、カルチャープレナー授賞式の時が臨月でその1カ月後に出産したので、思うようには動けない1年でもありました。ただ発信は決して止めずに、むしろより力を入れて、伝統工芸やものづくりについてオウンドメディアのコンテンツを充実させました。価値を伝え続け、理解してもらうことが「伝統工芸」というハードルの高いものを売る上でとても大切だと考えています。 ──高価格帯である「一生着られる振袖」の挑戦を決断した背景や思いとは? これまでレナクナッタでは、さまざまな伝統工芸の職人の方々とともに、洋服や小物、ホームアイテムなどを制作してきました。そんななか「伝統工芸の技術を今のライフスタイルに合わせるだけでなく、伝統ど真ん中で勝負をしてみたい。伝統工芸を最大限に活かした、まさに『着物』そのものを作りたい」という思いが出てきました。 着物をつくると決めてからは「伝統の王道」を踏襲した和装を目指しつつも、ただの着物にとどまらず、特別な価値を持たせたいと考えました。そこで思いついたのが、「一生着られる振袖」というコンセプトです。 成人の日は多くの日本人女性が振袖を着る機会です。ですが次のような状況から、レンタルが主流になりつつあります。 ・未婚女性が着る振袖は、人生で着る機会が限られる ・第一礼装なので高価 ・特に、成人式の振袖は年齢を重ねた後に着づらいデザインが多い その結果、購入する機会が少なくなり、生産が減少しているのが現状です。せっかく日本の伝統衣装に触れるチャンスなのに、それが購入体験につながらないのは惜しいと感じました。