マンガ大賞『君と宇宙を歩くために』作者取材 “普通”ができない2人の友情物語 「実体験をベースに」
■ネガティブになってしまった時の気持ちや実体験が作品のベースに
――宇野くんが苦手なことに直面した時にどうすればいいのか分からなくなってしまう様子を、「宇宙に浮いているみたい」と例えた表現が印象的でした。こうした表現はどのように生まれたのでしょうか? 自分がそんなに要領がいい方ではないので、昔から失敗してしまった時とかそういう時にネガティブな気持ちになった時に、寄る辺ないというか、どこにつかまっていいのか分からないような気持ちになっていたなっていうのを感じていたので、それを表現するのに一番感覚というか言葉でぴったり合うのが、宇宙に放り出されてるような感覚なのかなというふうに思って、自分の実体験をベースに描きました。 ――漫画制作の時には、自分の心情や体験したことを反映されることが多いですか? そうですね。基本的には、自分が体験したことや見たもの、聞いたものをベースに作っています。 ――作品の時代設定は「平成」ということですが、その理由を教えてください。 私自身、学生時代を平成で過ごしたので、今の子たちと当時(平成)の学生って普遍的な同じ悩みとか、いいところ、悪いことは共通してるとは思うんですけど、SNSがそこまで発達してなかったっていう部分もあって、(今は)多分また違った悩みがメインになってくるのかなと思ったので、そこを自分が描けるかっていうと、丁寧に描写するのが難しいかなと思って。だったら自分が体験した学生の頃の感覚とか気持ちとか、“当時こういうことで悩んでたな”っていう部分を描けたらいいなと思って、平成を時代に設定しました。
■気をつけていることは「出てくる登場人物をキャラクターにし過ぎない」
――制作で苦労しているところはどのような部分ですか? 全話苦戦してます。“本当にこの表現でいいのかな”っていうのを、ずっと毎話毎話悩みながら、それこそ今は多くの方に読んでいただいていますけど、(連載開始)当時は受け止めてもらえるかどうかも分からなかったので、1話、2話、3話あたりはすごく悩みながら、苦労しながら、描いてた記憶があります。もし締め切りがなかったら、多分1話も世に出せていないかなっていうふうに感じる部分もあるので、毎話毎話表現や言葉の使い方、主人公たちの感情、感覚っていうのは、難しいなと思いながら描いています。 ――作品のこだわりや意識しているところはどのようなところでしょうか? 気をつけてる部分は、主人公だけじゃないんですけど、出てくる登場人物をキャラクターにし過ぎないようにしようっていう。私と担当編集さんとベースを作る時に、いつも表現や言葉を選ぶ時に気をつけている点です。それぞれ行動原理とか設定みたいなのは決めてあるんですけど、それになぞらえすぎてしまうと、どうしても“キャラクター”になってしまうので、どこか身近にいるような存在だと思ってもらえるように、より現実っぽいところも入れつつ、二次元の漫画のキャラクターとして見てもらえる部分も入れつつで、ちょうど半々ぐらいになるように描けたらいいなと思っております。 ――1巻のあとがきに「ペン入れの時に聴く音楽たち」をあげていると思いますが、音楽が好きなんですか? ライブに行ったりするほうではないので、人並みだと思うんですけど。感情って揮発しやすいものだと思っていて、感情とか「この話面白いかも」みたいなシーンが浮かんだ時、メモとかしておかないと、次の次の日とかには忘れちゃうんですけど、自分の中で「この歌詞のここのセリフすごいこの子の感情とぴったりかも」っていう楽曲を見つけておくと、1年、2年たってもそのまま残ってる、受け取れる時があるので。イメージソングじゃないですけど、そういうものを見つけておくと、ネームとか「この後どう進めようかな、この子はどうやって動くのかな」っていうのを迷った時に、最初に決めておいた曲を聴くと「この子はこういう感情になるよね」っていうのを、また思い出せるような気がして、それでペン入れする前にいつも聴いてます。