柴崎岳の苦悩と覚悟「自分への信頼は揺るがない」
開幕前の芳しくなかった下馬評を覆した西野ジャパンの快進撃は、正確無比な長短のパスを繰り出した柴崎の存在を抜きには語れない。セネガル代表とのグループリーグ第2戦で、MF乾貴士(レアル・ベティス)のゴールを導いた自陣からのロングパス。ベルギー戦でMF原口元気(ハノーファー96)のゴールをアシストしたスルーパス。いずれも日本サッカー界の歴史で語り継がれていくシーンになるだろう。 しかし、4試合すべてで先発して攻撃を差配したからこそ、日本が新たなステージへ進むために必要なアプローチも見えてくる。ロシア大会を終えたときに胸中に抱いた、偽らざる本音を柴崎は明かした。 「いろいろなタイプの選手が必要ということと、さまざまな状況に高いレベルで対応できる選手が必要だというところで言えば、いまの時期から競争力のある日本代表チームを作り上げていかないといけない。ワールドカップのメンバーは23人ですけど、誰が出ても変わらないような、30人くらいのチームを作り上げなければいけない。交代選手も含めてさらに一丸となって戦わないと、ベスト16というところは突破できないのかな、と思っているので」 ロシア大会の攻撃陣は大迫勇也(ベルダー・ブレーメン)の1トップと、左から乾、香川真司(ボルシア・ドルトムント)、原口の2列目が固定された。流れを変えるためのカードも、MF本田圭祐(メルボルン・ビクトリー)やFW岡崎慎司(レスター・シティ)らに限られた。 縦へ突き抜ける速さもなければ、ゴール前での制空権を競い合う高さも足りなかった。翻ってコスタリカ戦では24歳の中島翔哉(ポルティモネンセSC)、23歳の南野拓実(ザルツブルク)、そして東京五輪世代でもある20歳の堂安律(FCフローニンゲン)が得意のドリブルを前面に押し出しながら連動した。 彼ら若手三銃士は10月シリーズも招集されている。浅野拓磨(ハノーファー96)は故障で辞退したが、国内屈指のスピードを誇る伊東純也(柏レイソル)は直近のJ1で2ゴールをあげるなど好調をキープ。浅野の代わりには、184cmの高さを武器とする川又堅碁(ジュビロ磐田)が追加招集された。 「新しい選手がどんどん出てきているのは非常にいいこと。まだ呼ばれていないなかでも、可能性がある選手はたくさんいると思うので」 攻撃のバリエーションが増えそうな陣容に、タクトをふる男はちょっとだけ声を弾ませた。ヘタフェで募らせる不完全燃焼の思いと、30歳で迎える次回のカタール大会へ森保ジャパンをけん引していく覚悟と決意。パナマ戦へ向けて母国に降り立った柴崎の胸中で、後者が占める割合が一気に逆転している。 (文責・藤江直人/スポーツライター)