【解説】イギリス王室にまで深く入りこんだ中国人実業家・楊騰波氏の裏の顔…欧米で警戒される中国統一戦線工作部とは?
欧米が警戒を強める統一戦線工作部
統一戦線工作部とは、中国共産党中央委員会の機関で、複雑な活動を担う。 主な任務は、以下の通り。 <国内向け> ・国内少数民族・宗教団体への働きかけ 宗教指導者の取り込みや、文化的同化政策 ・知識人および非党勢力の取り込み 中国では「政治協商会議」(全国人民政治協商会議、通称政協)を軸に、非共産党員、企業家、文化人といった党外のエリート層の取り込み、非共産党人士と呼ばれる知識人や政治勢力を共産党と連携させ、「共存共栄」 の枠組みを形成 <国外向け> ・華僑・華人社会への働きかけ 海外に住む中国系移民や華僑・華人を対象に、文化的・政治的連携を強化、華人コミュニティのリーダーや団体に対し、統一戦線工作を通じて関係を築き、共産党の政策への協力 ・台湾および反分裂活動 ・プロバガンダ 特に、習近平政権下では、統一戦線活動がさらに強化され、特に台湾統一や国外影響力工作への注力が目立っている 日本国内では、関連組織として、駐日中国大使館の指示を受ける日本中国和平統一促進会、全日本華僑華人中国平和統一促進会や全日本華人促進中国平和統一協議会がある。 また、統一戦線工作部の直下にある中華全国帰国華僑連合会に紐づく全日本華僑華人社団連合会や日本華僑総会もあげられる。 更に、中国共産党統一戦線工作部条例(2015年5月施行)では、海外華僑や華人のコミュニティである同郷会を設置させている。統一戦線工作部は、この同郷会を通じて、海外華僑の主要な人物の情報を把握、その活動に利用し、特にソフトパワー戦略に活用している。 楊氏の経歴や報じられている内容を鑑みても、統一戦線工作部の目的および対象に合致していることは明白である。
統一戦線工作部の日本への活動は?
さて、この統一戦線工作部であるが、欧米では特に警戒されているが、日本でも当然警戒すべき存在だ。 一方で、あまり大きく報じられることはなかったが、今年の8月、立憲民主党の岡田克也幹事長ら訪中団が、北京において中国共産党の党外交を担う中国共産党対外連絡部の部長・劉建超に加え、中国共産党中央統一戦線工作部長である石泰峰とそれぞれ会談を行っている。 対外連絡部との会談は特筆すべきことではないが、統一戦線工作部長との会談は強い懸念を感じざるを得ない。 今年1月には、社民党の福島瑞穂党首が訪中し、中国共産党序列4位の王滬寧(おう・こねい)政治局常務委員とも会談している。王滬寧氏は、統一戦線工作を主導していると目される人物であり、その危険性を指摘する声も上がっている。統一戦線工作は、野党にも触手を伸ばしている状況だ。 英国王室まで触手を伸ばしていた統一戦線工作部。日本も他人事ではない。 (執筆:日本カウンターインテリジェンス協会代表理事 稲村悠)
稲村 悠