〈クマ被害の最も多い都道府県は?〉被害ゼロの地域も、データで見る実態とその背景
冬を前に、野生の熊が人里に現れ、農作物や人に対して被害を及ぼす事例が報道されている。秋田市では、11月30日にスーパーに侵入し、2日にわたって居座った。 【図表】データで見るクマ被害 通常、熊は11月から翌年の4月にかけて冬眠するといわれているが、今年は暖冬が続いたためか、11月に入っても熊の出没が報告されている。秋田県の「ツキノワグマ等情報マップシステム(クマダス)」によれば、11月1日から30日までの1カ月間で、54件のツキノワグマ目撃情報が登録されている。秋田県では毎日どこかで2件弱の熊の出没が起きていることになる。12月からの冬眠をまえに、熊も食料調達の追い込みをかけているためであろうか。 今回は、野生の熊の被害状況を検討するとともに、その背景にある野生の熊の生存状況、人口の少子・高齢化を踏まえての展望などを地域別に検討することとしたい。
漸増する熊による人的被害
熊の生態やその被害については環境省が「クマ類による人身被害について [速報値]」として公表している。まず、08年以降の熊による人的な被害について示したものが図1である。 この統計は環境省が都道府県ら聞き取った数値を取りまとめたものであり、24年は11月とりまとめ時点前までの速報値である。ただし、出没件数の集計方法は、都道府県ごとにそれぞれ異なる(警察への通報件数、市町村からの情報など)とされている。 図1を見ると、被害者数は年によって変動はあるものの漸増傾向を見せており、被害者数に占める死亡者数の割合(折れ線)も近年増加傾向にあることが分かる。
地域で偏在する被害
次に、熊による被害を都道府県別に比較してみることとする。環境省資料による23、24年(11月集計前まで)の足掛け2年の間での被害者の分布を示したものが図2である。 図2を見てすぐにわかることは、東日本地方特に北海道・東北地方で被害者数が多いことである。また、逆に西日本地方では被害者数がゼロとなっている府県が多い。すなわち、熊による人への被害はかなり地域的な偏在が大きいことがわかる。 各都道府県で人口が異なるため、被害者数を各都道府県の人口で除した比率を算出し、上位10位までを示したものが表1である。 表1ではランキングが示されている10の県のうち、半分の5県が赤い字で示した東北地方で占められている。逆に言うと西日本の県で表1のランキングに含まれている県は島根県だけである。 ここでランキングに含まれる山形県、石川県、島根県は被害者の数では10人を下回っている。しかし、北海道は12人とこれらの県よりも多いにも関わらず、10位までにランクされていない。北海道の被害者発生率は、12人を総人口(509万人)で除すと人口千人当りの被害者数は計算上は0.002となるためである。 東北地方で熊による被害が多いことは、図3に示した23年の地域別内訳で一目瞭然である。環境省公表資料の円グラフを見てわかる通り23年のクマ類による人身被害の4分の3が東北地方で占められている。