【89歳の美容家・小林照子さんの人生、そして贈る言葉 】コンプレックスは幼少期に受けた何気ない言葉から生まれる
子どもにネガティブな言葉を発してはいけない
「赤ちゃんが生まれたあとも、まだ言葉もわからない乳飲み子であっても、その子の前でネガティブなことを言わないほうがいいですね。 つい『おねえちゃんは目がぱっちりなのに、あなたはパパに似て目が細いわね』といったように、兄弟姉妹と比べた発言をしてしまうことがありますが、それは控えるべきです。 私がメイクアップアーティストになって、多くの人と接する中で感じたことですが、コンプレックスのほとんどが幼少期から思春期に、親や兄弟姉妹、または親戚や友人など、身近な人から何気なく言われたことが原因になっています。だから子どもは、その子のよいところを認めて、愛情を注いで育ててほしいのです。 私はきっと、お腹の中で母の幸せオーラを存分に受けて生育し、生まれてきたような気がしてなりません」 大人になってから、お母さまから幼児期のエピソードを聞いたことがあるそう。 「私が1歳のときに妹が生まれました。ある日、母が布団に横になって妹におっぱいをあげていたときのこと。まだまだ赤ちゃんである私も、母のお乳が恋しかったのか、ハイハイをしながら二人のもとに近寄ったのだそうです。 すると、すでに母のおっぱいには妹という先客が。それに気づくやいなや、『あ、失礼しました』と言わんばかりにぺこりとおじぎをして、くるりと向きを変えて離れていったそうです。『それはそれは、おかしかったわよ!』と母が話してくれて、二人で笑ったものです。 そんな楽天的な私ですが、一度だけ母の背中で大泣きをしたことがあります。その記憶は私自身の幼児期最古の出来事として残っています。 ある日の夕方、私は母に背負われて、家の外に出て父の帰りを待っていました。夕日に染まる原っぱに夜の空気が流れても、なかなか帰ってこない父。その瞬間、母の寂しい感情が、まるでパソコンの端末同士が同期するかのように、一瞬にして私に伝わってきたのです。 私がおぶわれていたことを考えると、妹が母のお腹の中にいた時期かもしれません。私にとっては何も悲しいことはなかったのに、感情をあらわにして大泣きしました。そのときに感じた、なんとも言えない悲しい気持ち、切ない感覚が今でもはっきりと体に残っています。 その後、私が3歳のときに両親は離婚しました。ひょっとしたら、あのとき母はその兆候をいち早く察知していたのかもしれません」 イラスト/killdisco 取材・原文/山村浩子