また、ひとつの光が消えた…塩野瑛久の美しくも繊細な芝居の魅力とは? 大河ドラマ『光る君へ』第40話考察レビュー
第二の直秀が登場…?
一条天皇も定子を愛するあまり政が疎かになったことがあり、当時は正直イラッとさせられたが、そういう風に視聴者が良くも悪くも感情をかき乱されたのは塩野の演技に人間味があったから。天皇という立場でありながら、塩野が演じる一条天皇はつねに私たちと同じ目線に立っていた。 そんな一条天皇が崩御し、道長はひそかに涙を流す。意外に思われるかもしれないが、二人が長い間、時に対立しながらも二人三脚で歩んできたことを考えると何ら不思議ではない。一条天皇と道長は民のための政を進める同志であり、立場を超えた盟友に見えた時期もあった。だが、少しずつ己の権力を高める方向に傾いてしまった道長。何のために権力を求めるのか、今の彼は本来の目的を見失っている。 そんな中で現れるのが第二の直秀だ。終盤、かつて明るい黄色の着物に市女笠をかぶった賢子(南沙良)が、乙丸(矢部太郎)を引き連れて辻に出かける姿に驚かされた。 衣装が同じということもあるが、年若き頃の母・まひろに瓜二つではないか。さらに乙丸が持っていた瓜を盗んだ男を追いかけた先で、一味に囲まれた賢子を颯爽と助けたのはかつての直秀を思わせる青年・双寿丸(伊藤健太郎)。 その後、足を挫いた乙丸をおぶって家まで送り届けた双寿丸を賢子はお礼にと食事でもてなすのだった。直秀がクールだったのに対して、双寿丸は快活で人懐っこい印象を受けるものの、野生味があって人生経験が豊富そうなところは共通している。 そんな双寿丸を賢子も気に入った様子で、男女のあれこれに敏感ないと(信川清順)は「姫様のことは今日限りお忘れくださいませ。姫様のお爺様は、越後守であらせられます。あなた様とは釣り合いませぬゆえ」とクギを刺していた。 この双寿丸と賢子の出会いのシーンは次世代の物語が始まることを告げると同時に、2人の存在がまひろや道長に初心を思い出させてくれるのではないかという期待も膨らませてくれる。シリアスな展開が続く本作に少しでも灯りが差すといいのだが…。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子