沈没国家・日本を生きる「超重要なヒント」はここにあった…人類学誕生から100年、世界を変えた「4人の天才たち」
「文化相対主義」の源流
4章では、新大陸、つまりアメリカの人類学者ボアズが登場します。彼は人類学にとって重要な概念である「文化相対主義」の源流となった学者です。それぞれの地域、国で培われた文化には優劣などない。自分たち以外の文化も、自分たちと同等の価値があると認めるべきだ。今では当たり前のように思えるこの文化相対主義ですが、実はアメリカの人類学者たちが世界大戦という状況下で生み出した、当時としてはまったく新しい概念だったのです。そして、めいめいの文化に生きる人々はそれぞれの歴史の中で生きていくための方法を見つけ出してきた、といいます。本書ではこうしたアメリカの人類学が重視した考え方を「生のあり方」として捉えます。 5章では、現代の人類学をテーマに据えます。この章の主人公は、現役の人類学者として後進の人類学者だけでなく、アートや建築などの領域に影響を及ぼしているインゴルドです。彼はそれまでの学者とはまったく違うアプローチで人類学を推し進めました。インゴルドは、この世界を人とモノが絶えず絡まり合い、変化しながらつくられていくプロセスだとみなしました。彼の新たな人類学は、「生の流転」と名付けることができるでしょう。 これら4人が辿り着いた「生」に関わる諸概念こそが、人類学がその歴史の中で見つけ出した生きるためのヒントなのです。そしてこの4人の思索を辿りながら、同時に「参与観察」や「民族誌」、「インセスト・タブー」、「贈与論」、「構造主義」、「ブリコラージュ」、「野生の思考」、「文化相対主義」など、人類学における重要ワードも押さえていきましょう。 そして終章では、これまでの議論を振り返りながら、これからの人類学がどこへ向かおうとしているのか、私たちは人類学という学問をどのようにして携えて生きていくべきなのかを問います。 本書を読み終わる頃には、これまで曖昧なイメージしか持てなかった人類学を、より生き生きとした、手触りのあるものとして感じることができるでしょう。人類学は遠く離れた人々を対象とする学問であるだけでなく、私たち自身の「生」を含め、「生きている」と向き合うための学問でもあるのです。 さらに連載記事〈なぜ人類は「近親相姦」を固く禁じているのか…ひとりの天才学者が考えついた「納得の理由」〉では、人類学の「ここだけ押さえておけばいい」という超重要ポイントを紹介しています。
奥野 克巳