レモンジーナやヨーグリーナ「品薄商法」は存在するのか
モノを買わなくなった日本人
今回の件は本当に品薄商法だったのだろうか。おそらくそれはないだろう。確かに品薄商法と言われるような手法をとる企業もある。しかしサントリー社、特に「レモンジーナ」に関しては、結果として品薄商法に見えてしまった部分があるものの、緻密な戦略があったわけではないだろう。 なぜ品薄商法をする企業が出ているのか。そして、なぜサントリー社のケースは品薄商法ではないのかを説明していきたい。関連するのは「消費者の購買行動の変遷」だ。 高度成長期からバブル期にかけて、日本人の購買意欲は旺盛だった。多くの人が消費することを楽しみ、喜んでいた時代だ。「給料が増えたら、車を買おう、マイホームを買おう」という時代だ。基本的に、ほとんどのモノが右肩上がりに売れた時代だ。 バブル崩壊以降、時代は変わった。日本人はモノを買わなくなったのだ。モノを売りたい企業とモノを買わない消費者。こうした状況を打破するために、テレビCMは変わっていく。より目立った広告にして、消費者に情報を届けようと、インパクトのある表現のCMが増えるようになった。また、自社製品がよく売れるということをアピールするために、テレビCMをどれだけ流すかを「GRP(=Gross Rating Point、延べ視聴率)」という業界用語まで使われた。一時期、店頭では商品のPOPにGRP表記がつけられたものまで出現したほどだ。 しかし、こうした状況もインターネットの出現で変わっていく。消費者は溢れる情報をシャットアウトするようになった。テレビにおけるCMは見られなくなり、自分自身の興味のある情報、話題性のある情報ばかりに興味が向くようになった。この結果、今まで消費者に届いていた情報も届きにくくなってしまったのだ。一方でメーカーは多様化する消費者の嗜好に合わせた商品開発を次々に行うようになった。こうして発売される商品点数は増加していったのだ。商品や情報は増えるものの、ほとんどのものが消費者に見向きもされない時代。この時代において、いかに「話題性」を商品にまとわせるかを企業は意識するようになっているのだ。 話題性を商品にまとわせる上で、世の中に人気があるということはとても大きな要素の一つになる。まして、世の中に人気があって品切れになっているという状況があれば、消費者の関心はさらに高まる。その代表格が「品薄」「品切れ」だ。つまり購入に「限度」があるという状態は消費者の購入心理を加速させる。 類似の例で言えば「期間限定」「地域限定」「数量限定」という「限定」という言葉がつくことによって「限定」がつかない場合以上に販売量は伸びていくものだ。またテレビショッピングにもわかりやすい例がある。画面左下などに価格や製品サイズとともに注文状況が表示されるのだ。そしてテロップで「残りわずか」などという文字が映し出され、ナレーターは「大人気で電話がつながりにくくなっています」と伝える。消費者からすれば「今買わないと買えないかもしれない」という購買心理が働くため、必要以上に購入へと向かってしまうのだ。