ウクライナ戦争開戦から2年、NATO軍の元最高司令官が語る「敗北のシナリオ」
重要なのは、アメリカによる支援だけではない
反転攻勢の足を引っ張ったのは、航空支援の不足だけではなかった。 「西側は、ロシアがGPS制御の誘導弾に迅速に対処し、その効果を損なわせる能力を過小評価していた」と、グレッセルは指摘する。 冷戦期の戦略に切り替えを さらに彼は「今年はウクライナにとって厳しい年になるだろう。西側諸国はウクライナを武器の面で優勢にするための砲弾や迫撃砲弾でさえ増産していない」と語る。 その一方で、兵器供給などいくつかの条件が改善されれば、来年の見通しは改善するだろうと期待も示した。 ウクライナ軍は戦闘が始まった22年、東部ハルキウと南部のヘルソンの奪還、首都キーウからのロシア軍撃退やロシア海軍黒海艦隊への攻撃などのさまざまな戦果を上げた。 だが元ウクライナ軍兵士で防衛アナリストのビクトル・コバレンコは、それがゼレンスキーと米バイデン政権に「非現実的な目標」を設定させることになったと語る。 「そろそろ西側諸国は、成果が確認できている冷戦期の戦略に切り替えるべきだ」と、コバレンコは言う。 これは「ウクライナ国内とNATOの境界沿いで、必要ならばどこででも、どんな手段を使ってでもロシアを抑止し封じ込める」という戦略だ。 ウクライナにはいくつかの有利な状況がある。 黒海の北西部ではほぼ完全に主導権を奪還し、ロシア海軍を撤退させた。 地上では、ロシアとクリミアをつなぐ陸橋に向けて短距離迫撃砲を使えるところまで進軍を果たした。 しかし今後数十年のヨーロッパの安全保障を左右する戦争の次の段階で重要なのは、アメリカによる支援だけではない。 ゼレンスキーはEUの支援がなければウクライナが生き残ることは難しいと語っている。 そのEUからの500億ユーロの支援策については、EU内でプーチンの唯一の盟友であるハンガリーのオルバン・ビクトル首相が拒否権を行使していたが、2月に入ってようやく合意にこぎ着けた。 「西側諸国による支援は今後、ウクライナ国内での防御施設の建設、多層防御能力の構築、新兵の訓練や兵器の増産に焦点を当て直し、ロシアがこれ以上、領土を攻撃または奪取しようとした場合に応戦できるようにすべきだ」と、コバレンコは言う。 「プーチンは自分が優位に立てる隙を探している。しかしウクライナ戦略の重点を防御面に移行し、抑止力と組み合わせれば、その隙はなくなるだろう」