1年にわたる口やのどの成長と発声練習を経てついに…赤ちゃんが単語を言えるようになるまでの<道のり>とは
◆“しゃべり”に近い規準喃語 さらに4~6か月になると、口のなかの空間はいっそう広がり、声を響かせるだけでなく、舌もさまざまに動かせるようになります。こうなると、赤ちゃんは、実にさまざまな音を出すようになります。 その様子は、まるで自分の声で遊んでいるようなので、この時期は「声遊びの時期」とも呼ばれます。そしてゼロ歳後半ともなれば、「アーアー」とか、「バーバーバー」など、音を繰り返す発声が見られるようになります。 厳密に言えば、「アーアーアー」のような母音の繰り返し音声より、「バーバーバー」「マンマンマン」のような母音と子音が組み合わされた音(音節)の繰り返しの方が高度です。 というのも、母音の繰り返しは、「アー」と言いながら身体を揺すれば出せますが、音節の繰り返し音声(規準喃語)は、唇や舌を動かして音を区切らなければならないからです。 私たちは言語を話すとき、ものすごい速さで違う音をつなげてしゃべっています。そのような“しゃべり”にいちばん近いのも、この規準喃語なのです。
◆やっと単語が言えるように このように淡々と説明すると、赤ちゃんの声は、時期がくれば変わっていくもののように思えるかもしれません。確かに、成長とともに口のなかの空間が広がり、舌が動かせるようになることは重要です。 しかし聴覚障がいのある子どもは、声は出せても、それが規準喃語にはなっていきません。言語に近い発声ができるようになるためには、自分で唇や舌を動かして発声してみて、その声を聞き、発声の仕方を調整して、という赤ちゃん自身の練習が必要なのです。 実際にこの時期の赤ちゃんは、自分の身体の動きとその結果(音)との関係に、大いに興味を持っています。振ると音が出るようなおもちゃに、いちばん熱中するのも、ゼロ歳後半のこの頃です。 このようにして、1年にわたる口やのどの成長、そして発声練習があって、子どもは1歳の誕生日を迎える頃、やっと単語が言えるようになるのです。 *1 Darwin, C. 1877 A biographical sketch of an infant. Mind, 2(7), 285-294. ※本稿は、『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
針生悦子