時速70kmでごみが地下パイプを移動 スウェーデンで見たサステナブルな収集
■日本で導入も廃止相次ぐ
このごみの自動収集システムは、Envac社の前身が世界で初めて開発したとされる。1961年にスウェーデン中部ヴェステルノールランド県の病院に導入し、1967年にはストックホルムの住宅地で稼働した。両システムは、現役で、導入当初のパーツも残っているという。 日本でも70年代から90年代にかけて、全国のニュータウンを中心に導入が進んだが、千葉県の幕張ベイタウンなど数箇所を除き、軒並み廃止されている。 一番の問題はコストだ。千葉ニュータウンは設備の点検費用を挙げ、横浜のみなとみらい地区は集じん設備の更新費用を、多摩ニュータウンはパイプの老朽化により補修費がかさんだことなどを廃止の理由に挙げた。また、導入当時はごみの分別が浸透する前だったため、ダストシュートの種類は一つのみで、収集量も多かった。ただ分別が始まって以降は、種類別の輸送ができないシステムであったため、収集量が減少し、採算が取れなくなったことも指摘された。
■ストックホルムでは件数増加 その理由は?
ストックホルム市の上下水道と廃棄物収集を管理する、Stockholm Vatten och Avfall(SVOA)社によると、同市では51万世帯のうち、約10万世帯が自動収集システムにつながっており、さらに導入件数は増えている。 日本との比較は様々な条件が異なるため難しいが、コスト面がネックと見られる同システムが、なぜ広まり、拡大の方向にあるのか。同社の広報担当アレクサンドラ・ フリートウッド氏に尋ねた。 フリートウッド氏は大きな理由を2つ挙げた。まず一つ目は、従来の手動による廃棄物収集が作業員に非常に負担のかかる作業であることから、ストックホルム市は収集の機械化を促進していると説明した。 廃棄物管理の業界は労働環境の観点から長年問題視されており、特に収集作業では、天候に関わらず行わなければならず、重い物を持ち上げる体への負担、危険物との接触などリスクを伴っている。そのため、同市は、工事や運用が可能かつコスト面で合理的な限り、機械化された収集法に全面的に移行しようとしている。その機械化の方法の一つが、自動収集システムというわけだ。 次に挙げた理由は、空間の有効活用が可能になるという点だ。ストックホルム都市圏では人口の増加が続く中、それを支えるための住居やインフラ、オフィス、教育施設の建設が喫緊の課題となっている。 住居だけでも2010年から35年までに14万戸を建設する目標を掲げており、この間に大規模な住宅地が開発されている。市面積の約4割が公園を含む緑地、17%が水面という豊かな自然環境を残した上で、快適な生活環境が整った住宅を増やすには、空間の有効活用が求められる。そのため、少ないスペースで、多くの世帯のごみを効率的に収集できる自動収集システムのメリットが大きい。 こうした理由から、2018年に策定された都市開発計画では、大規模な宅地開発においては自動収集システムの導入検討が前提と示されている。 ただし、導入決定にはコスト面が重要な要素であり、1000世帯以上が接続できることが条件だとフリートウッド氏は説明した。財政的な負担を軽減するため、システムは長期間使用できるよう設計されており、地下配管は80年間使用可能な耐久性を持つ設計になっているという。